中編3
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干物女の日常

駅から徒歩10分、築20年のアパートの一階に私は住んでいた。

間取りは2K。

世の中、就職氷河期最盛期と言われ始めた頃に4流大学を中退し、フリーターとして生活を始めた。

もちろん正社員の道もなく、本気で就活する気合いもなく、アルバイトや派遣社員としてぷらぷらと色々な職場を渡り歩いていた。

一向に増えない貯金とは逆に気づけば年だけはいっちょまえになっていた。

以前は

『早く結婚しろ』

と言っていた実家の親も今じゃすっかり諦めているようだ。

その日は休み、目が覚めたのは13時過ぎ。

昔は休みとなれば真冬のクソ寒いなかでもバカみたいに足出して渋谷やら原宿に出かけ、化粧品や洋服などを買い込んだりもしていた。

だが今は、寝間着のジャージを着たまま駅前のパチンコ屋に行き、日が暮れるまでそこで過ごすのが定番だ。

どうしようかな〜、パチ行くにも金ねぇしな〜。

とりあえずシャワーでも浴びんべ〜。

ってことでタンスを開けるが…下着がない。

やべ、下着が尽きた(汗)

仕方なく、洗濯物が溜まった篭をひっくり返し洗濯機にそのまま放り入れる。

どんだけ溜め込んでるんだよ私(笑)

大量の下着達を一通り干し終えた私はジャージのまま近所のコンビニに出かけた。

コンビニで缶ビールやツマミ、ジャンプを買って帰宅し、そのままワイドショーを相手にダラダラと飲んでいた。

ワイドショーが終わり夕方のニュースが始まった頃、ベランダの方から物音がした。

家のベランダは野良猫の通り道になっているので、また野良猫が暴れているのかとも思ったが、奴らならもっと遠慮なく派手な音をたてるはず。

薄暗いベランダに目を凝らすと人影がある。

心臓の音がが大きくなる。

え、なんかいるよね?

え、どうしよう、相手が刃物を持ってたら殺されるかも。

結構パニクった。

だが、酒が入っていたせいか、

『大丈夫、勝てるかも〜』などと、今考えればかなり無謀にも、両手に一生瓶を持ち、意を決してカーテンを開けた。

…いた。

幽霊とかじゃない。

見知らぬ男がベランダに

ボサボサの髪の毛、青白い顔。

血走った目の小汚ない身なりの男がそこにはいた。

男の手には私が先ほど一生懸命干した下着。

考えるまでもなく下着泥棒だ。

さすがに焦った。

あまりに『いかにも』過ぎる変態的な見た目も怖かったし、30年前後生きてきて犯罪や事件なんてもんはテレビや新聞の世界だけだと思っていたから。

だか、フリーズしている間に恐怖心は徐々に薄れていった。

洗濯したとはいえ、半月近く溜め込んだ下着を盗もうとして見つかった挙げ句、私以上に焦ってビビっているこの男。

男のあまりのビビりぶりに恐怖心より呆れが。

ガンッ!!

軽い放心状態の私は我に返った。

見ると男はベランダの手すりに拳を打ち付けて俯いている。

え?なに?

泣いてんの?

ガラス越しに私の下着を握りしめたまま泣いてる男を見て恐怖心は完全になくなった。

自分より情けないこの男をみて同情してしまったのだろう。

私はベランダのサッシに手をかけた。

今も私は相も変わらず駅から徒歩10分のこのアパートに住んでいる。

パートナーと呼ぶべきか、同居人が1人増え、来年の春には私達は家族になる。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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