短編2
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黒い蝶

むかし、私には妙なものが見えていたようだ。

いや、その言い方には語弊がある。

見えていたのだ。

初めは、ちょっとした事だった。

病院に行った時のことだ。

母の話によると当時まだ3歳だった私は、ある病室を指差して、しきりに「蝶々!! 蝶々!!」と繰り返したらしい。

母は、そんなものは見えないと言ったらしいのだが。

翌日、其の病室に入院していた老婆が静かに息を引き取ったそうだ。

それからも、事あるごとに私は「蝶々」という単語を連発し、そのたびに、まるで予言のように其の場所で人が死んでいった。

5歳の夏の事だ。

初めて電車で旅行をしようという事になった。

けれど、私はいまだにその光景を覚えている。

列車の中には、真っ黒な蝶たちがひらひらと乱舞していた。

「乗りたくない!! 蝶々!! 蝶々!!」

私は言った、両親も何か鬼気迫る物を感じたのか、それに従って其の列車を見送った。

其の列車は脱線して、多くの人命が失われた。

今でこそ、あれらは白昼夢だったんじゃないかと思える。

けれど、「人間にはだれしも霊感があって、それは加齢とともに弱っていく」なんて事を聞くたびに、もしかしてと思ってしまうのも事実なのだ。

今となっては、あの黒い蝶がなんなのかは分からない。

白昼夢のような幻想なのか、あるいは死神でも見ていたのか…。

だれしも幼いころには大なり小なり奇妙な経験をした事があるだろうと思う。

もしも、「黒いもの」を見た…という子供の声を聞いたならば、多少真剣に考えてみても良いのではないだろうか?

いまでこそ、あんなものは幻想で、ただの偶然だと思っている…。

けれど、今でも私は黒い蝶を見るたびに誰かに「なぁ、あそこに蝶がいるよな?」と確認してしまうのだ。

「いる」と言われる事がほとんどだが…。

もしも、「居ない」って言われたら……。

怖い話投稿:ホラーテラー 似非紳士さん  

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