長編8
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軽自動車

ある日の夕方、俺は友人Aを乗せて車を走らせていた。

少し離れた友人Bの家で酒盛りをする為である。

プチ同窓会のような感じで、大学時代の仲の良かった10人くらいで集まって飲もうかということになったのである。

そこで、家の近かったAを拾ってからBの家に向かう予定だったが、Aが時間を勘違いしていて出発が遅れたのである。

平謝りするAを車に乗せて結構なスピードで走っていたが、間に合うかどうか微妙だった。

友人Bの家は山を越えた向こう側にあった。

山越えの道に入ったら、車は俺ら以外に走っていなかった。

曲がりくねってはいるが一本道で、信号もなく片側一車線のそれなりに走りやすい道なので、俺は調子に乗って飛ばしていた。

Aと他愛もない話をしながら車を走らせていると、前方にやたらゆっくりと走っている軽自動車のテールランプが見えた。

一本道であるために、山を越えてふもと付近に下りるまで追い越すスペースがない。

はっきり言って焦っている俺たちには邪魔な存在だった。

そうこうしているうちに軽に追いついてしまった。

俺とAは何を会話するわけでもなく、いらいらしながらその後ろを走っていた。

しばらく軽の後ろを我慢して走っていたが、やたら遅い。

カーブの度に止まりそうな位ブレーキを踏む。

いくらなんでも遅すぎる。

この焦っている時に勘弁して欲しいってくらいの嫌味な速度で走り続ける軽自動車。

俺はとうとう痺れを切らしてAに言った。

俺『いくらなんでも遅すぎるよなあ。見通しのええ所で対向車線に入って追い越すぞ』

A『……』

ん? Aから返事がない。

ちらっと見るとAは真っ青な顔をしていた。

なんだか尋常な様子ではない。

調子に乗って飛ばしすぎたから、車に酔ってしまったのだろうか…。俺『おいA。どうした。気分悪いか?』

A『……』

俺『おい? どうした?』

Aに声をかけるが返事がない。

気分が悪いというか何かに怯えている?

俺『おい! A! なんだ? 何があった?』

ちと怒鳴り気味に声をかけると、Aははっとしたように口を開いた。

A『あれはまずいぞ、Y(俺)! 早く追い越してくれ!』

俺『はあ? 何がまずいねん? 訳分からん。まあ、追い越すけど…』前が遅くていらいらしている所に、Aの訳の分からんリアクションでさらにムカッと来た俺は、少し見通しの良い直線に来たところで軽を追い越した。

軽の前に入ってグッと加速すると、軽はバックミラーで確認するとあっという間にいなくなった。

追い越しをかけて軽快に車を走らせていると、少し気分が落ち着いた。

Aの方をチラッとみるとAも顔色が良くなって落ち着いているようなので、先ほどの事をたずねてみた。

俺『おいA。何があった?』

A『…あのさ見間違いかも知れんけどな。あの軽っておかしくなかった?』俺『おかしいって…。まあ、異様に遅かったけどな。どうせ爺さんか婆さんかおばはんのとろとろ運転やろ?』

A『…あの軽の中見んかった?』

俺『…見てないけど?』

A『…まあ、ええやん。止めよ。この話』

俺『そこまで話し振っといて止めれるかいな。なんやねん、一体』

話しながらふとバックミラーに目をやると、さっきまで何もいなかった真後ろに車が一台くっついて走っていた。

というより、もろに煽られていた。

どう考えてもさっき追い越した軽が煽ってる以外に考えられない。しかし物凄い煽りようである。

パッシングするはハイビームだわ…。

それでも俺は速度上げて頑張って走ったが、一向に振り切れない。

そして挙句の果てにクラクションまで鳴らし始めた…。

背筋に寒い物が走った。

俺『あかん。道譲るわ。さっきまであんだけとろかったくせに…』

そうAに告げるとAが物凄い剣幕で言い返してきた。

A『あかん、ぜったいあかん。譲ったら、止まったらあかん!』

俺はAの様子に少々びっくりしたが、落ち着いてAに言った。

俺『無理。こんな調子で煽られてこんな速度で走ってたら事故起こすわ。譲る』

Aが何故か涙目で俺を見ていたが、分かったと一言言うとうつむいてしまった。

俺が道を譲ろうと左ウィンカーを出し、速度をゆっくり落としながら車を左に寄せ始めると、『ゴツン』という衝撃が後ろから走った。

早く行けとバンパーでこづいているような感じだった。

相手が尋常じゃない奴だと今更ながら気付いた。

道を譲るのは無理だと判断した俺は、また速度を上げて走り始めた。

物凄く恐ろしかった。下手に減速できない。道を譲る事も出来ない。

とにかく逃げ込めるスペースのある場所まで事故を起こさないように走り続けるしかなかった。

もう少し行けば、山頂に休憩用の駐車スペースがあったはずだ。

ものすごい煽りのプレッシャーを受けながらも、なんとか道の左側に山頂駐車場の出入り口が見えた。

24時間無料なので出入り口はチェーンなど掛けられていない事は知っていたし、かなり広い場所なので、スピードを出していたがぶつけずに駐車場に入る事が出来た。

駐車場の中に入ってすぐに車がスピンしてしまった。強引な角度で入ったためスピンしたのだろう。

突然のスピンに気が動転したが、幸いにも駐車場には他に車はなく、かなり広い事もあってどこにもぶつけずにすんだ。

停止してほっとして気がついた。

あの軽自動車は行ってしまっただろうか?ふと一つしかない出入り口を見ると、その出入り口をふさぐ形で軽自動車が停車していた。

全身総毛だった。

俺『どうしよ。なんか待ち伏せしてるみたいやで…』

Aに喋りかけたが、Aは先ほどからうつむいたままこちらを見ようともしなかった。

もともと気の強い方ではないAの事だ。かなりテンパッる事は見ても分かるとおりだった。

俺がしっかりしなきゃいけない。

それよりも先ほどぶつけられている事も気になっていた。

傷でも付けられていたら弁償してもらわなきゃいけない。立派な接触事故だ。怯えてテンパッてるAを見ているのと、ぶつけられ煽られた事に腹が立ってきた俺は、なんであんなのにこっちがおびえなきゃいけないんだという気になってきて恐怖より怒りが前に出てきた。

俺はAに

俺『ちょっと文句言ってくる』

と、捨て台詞をはいて車から降りて軽自動車の方へ歩いていった。

もちろんAは物凄い剣幕で反対してきたが降りてしまえば関係ない。

何でも出てきやがれって感じで怒りを前面に出して相手のほうへ歩いていった。

軽に近づいて不思議に思ったが、中にどんな奴が乗っているか分からない。

前面までスモークフィルムを貼ってるのか? とか馬鹿なことを考えながら、軽自動車の運転席の窓ガラスをノックした。

すると、運転席側の窓がすーっと開いた。

中を見た俺は一瞬目を疑ったが、もう一度じっくり確認してそして…。

一目散に車のほうへ逃げ帰った。

今まで生きてきた中で一番早く走って一番大きな声を出しながら…。

車の窓が開いた時、中には…。

人が乗っていた。いやそもそも人なんだろうか。それも何人も。4人乗りの車に5人とかそんなに生易しい物ではなかった。

もうギュウギュウ詰め。例えるなら通勤ラッシュの満員電車状態である。

隙間がないくらいびっちりと狭い軽自動車の車内が人で埋まっていたのである。

上下左右人の向きは関係なく、テトリスで隙間なく積み上げていくブロックのように…。

しかも、全員顔色が真っ青で目が空洞の様になっていた。老若男女いろんな人…。

その苦しそうな体勢の人たちが一斉に窓の外に立っている俺のほうに顔を向けているのである。

首が180度回っている奴もいた。結局、中が見えなかったのは人で車内が埋まっていたからである。

車に戻ると慌てて車を発進させた。

Aは何も言わずうつむいてガチガチ震えていた。

恐怖でパニクってた俺はとにかくこの駐車場から出なきゃいけない、逃げなきゃいけないと思い、強引ではあるが出入り口に止まっている軽と柵の間のスペースに車を滑り込ませて無理矢理すり抜けようとした。

左の柵に当たった。

バリバリといやな音を立てて車と柵が悲鳴を上げた。

しかしそれどころじゃなかった。

隣にある軽の方を見ないようにして思いっきりアクセルを踏んだ。

車の頭が駐車場から道に入った瞬間、ついうっかり右を見てしまった。

視界に軽自動車が入った。

中の人が全員こちらを見て笑っているように見えた。

そこで、物凄い衝撃を食らって意識がなくなった。

気付いたら病院だった。

結局、駐車場から車の頭を物凄い勢いで出した俺の車に、普通に走ってきた車が俺の車のフロント部分横へぶつかったのである。

Aは頭を打ったらしいがほとんど外傷がなく、軽い打ち身があちこちにあるくらいで無事だった。俺は開いたエアバックに思いっきりぶつかったせいなのだろうか? 鼻骨折して前歯が3本ほど折れて、足もどうやったのか分かんないけど右足の骨にヒビが入っていた。

打ち身も体のあちこちに出来ていて、熱が出てしばらく入院を余儀なくされた。

相手の方は20過ぎの女性で無傷だった。お互いに車はボコボコだったけど…。

結局警察と保険屋が入ってお互い話し合いして決着は付いた。

後日、退院できるかなといった時に事故った相手の女性が見舞いに来てくれた。

相手の女性に軽自動車の事を聞いたら、そんな車はいなかったと言われた。

先に退院したAはやはり前に走っている時からあの軽自動車の中身が分かっていたらしい。

俺が見てないのなら俺にまで変な恐怖を味合わせたくなかったから黙っていたらしい。

車は直せない事もなさそうだったけど、なんだか縁起が悪そうだから廃車にした。

退院はできたけど打ち身の痣がしばらく消えなかった。

なんだか痣の形が手のひらで叩いた後のようになっていた。

それも大きい物から小さい物までたくさんの人に叩かれたようになっていた。

ちなみにAの体に出来た打ち身もそんな感じだったらしい。

Aは財布の中に入れてあった母親から貰った身代わりお守り(そんなようなもんがあるのかな?)が粉々に割れていたとも言っていた。

結局、手の形をした痣もそれも時間はかかったけど今ではすっかり綺麗に直った。

オチも何もないけど洒落にならんかった。

怖かった。あの軽自動車もなんだったか分からない。

今でも車を運転していて後ろを煽られると、あの時の事を思い出す。

怖い話投稿:ホラーテラー コピー機さん  

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