中編6
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月明かりの下

就職先が決まり、会社に近い一戸建てに引っ越した時の話し。

引っ越しの荷物もだいだい片付き、リビングでゆっくりビールを飲んでいると、時刻は既に11時を回っていました。

「そろそろ寝るか…」

そう思い、寝室へ。

引っ越したばかりで、ベッドを出していなく、その日は布団で寝ることに。

疲れとアルコールも手伝って、あっという間にバタンキュー

そのまま眠ってしまいました。

ふと目が覚めたのは、午前3時ごろ…

「まだこんな時間か」

カーテンの隙間から月明かりが漏れてきて、庭の縁側をシルエットで浮かび上がらせました。

その瞬間、全身への金縛り、

縁側に誰かが居る事に気づきました。

間違いない、誰かがこっちを見ている…

カーテン越しに睨み会う形となった。

相変わらず体は金縛りで動かない。

隙間風が入ってきてもいないのに、カーテンが揺れてシルエットの足がチラッと見えました。

裸足の細い足。

あまりに一瞬でそのくらいしか分かりませんでしたが、

あれは多分、子供の足。

数分後、金縛りは解け動けるようになり、

カーテンの方に体を向けると、シルエットはゆっくりと月明かりとともに消えて行きました。

あれはなんだったのか…

次の日、初仕事を終え家に帰ると実家から手紙が来ていました。

開いて見ると、

[渡し忘れたものがあったので送ります。仕事、頑張って下さい。]と、

封筒のなかを漁ると、古い置物が。

それは私が子供の時から使っている変な鳥の文鎮でした。

そういえば、これを持って来るのを忘れた…

昔から使っているから愛着があり、無いと落ち着かないところがあった。

とりあえず、棚の上に置きリビングでビールの封を切る。

そして、昨日の事を考えていた。

ただの夢だったとしてしまえばそれまでだが、

どうもそうは思えない。

あまりにリアルな出来事だったので、鮮明にその時の事を思い出せる。

「あれはなんだったんだ…」

泥棒…か、いや、そんな感じじゃなかった。

ずっとこっちを見ていたし、逃げようともしなかった。

もちろん、盗られた物も何もない。

引っ越したばかりで、まだ段ボールから出していないものもあったし…開けられた形跡もない

ビールの缶を傾けると、もうなかは空だった。

もう一本飲もうかと思ったが、明日も早いので、やめにした。

考えてもしょうがない。

そう思い、あの寝室へ

また来たら、取っ捕まえればいいんだ、等と考えながら布団の中へ。

時刻は11時過ぎ

電気を消すと、今夜も月がきれいに出ているのか、

月明かりが窓から差し込み、部屋を神聖な場所へと変えた。

窓から月を見上げると、雲一つない夜空に白く輝く満月が…

[きれいだな。]

カーテンを閉めても、いまだに明るい。

その日の月は本当に輝いていました。

そして、今日も縁側を黒く、浮き彫りにするのでした。

その日、私は夢を見ました。

真っ暗な所に私は居て、周りにも大勢の人が居るようでした。

みんな何かに怯えるように身を寄り添い、ごしょごしょと何かを話していました。

しばらくすると、地面が揺れはじめ、閃光のごとき光りが差し込んだ後、周りは再び暗闇に包まれ、夢は終わりました。

ガバッと布団から起き上がると、既に朝。

「もう朝か…」

リビングに向かおうと、手を床に着いたとき

掌に何かが刺さりました。

「なんだ、これは!?」

畳が縁側へむけて逆立っていました。

まるで、爪で引っ掻いたように…

血のような黒い跡が残っているものもありました。

いくつもの引っ掻き傷が縁側の窓周辺に残っていました。

引っ越して来た時、こんなのあったか!?

元々あったのか、あるいは最近できたのか

元々あったのなら説明ができる。

でも、最近できたとなると……

頭のなかに、あの夜の光景が浮かび上がりました。

「まさか…な…」

この時点で、あの夜のシルエットと金縛りは、この世のものではない事に、薄々感ずきはじめました。

気持ち悪くなり、その爪の跡の上に棚を置き、窓ごと隠してしまいました。

きっと自分の思い過ごしだ…

そう言い聞かせるも、冷汗が止まらない

急いで着替え、仕事へ行く準備をし、

朝飯も食べず家を出ました。

一刻も早く、家から出たかった。

玄関を閉めた時、後ろから視線を感じた気がしましたが

振り返ることはできませんでした。

仕事から帰り、リビングに入ると、心なしか部屋が少し暗い気がしました。

気をまぎらわそうとテレビをつけましたが、運悪くホラー映画がやっていて、

見る気を無くし消してしまいました。

ト…ト…ト…ト…ト…

時計の音しかしない部屋は、自分が一人だという事を染々と感じさせられます。

そのうち、冷蔵庫からビールを取り出し

一気に飲み干すと、さらに一本取り出し、また飲み干す。

酔って寝てしまいたかった。

今日、引っ越しの手続きをしてきて、

2週間後に、ここを引っ越すことにしました。

まだ越してきたばかりだけど、仕方がない。

少し狭いけど、会社の近場にアパートを借りる事にしました…

酔いもまわってきましたが寝室で眠る気がせず、

リビングのソファーで眠る事にしました。

寝心地は最悪でしたが、寝室よりはマシ。

電気を消し毛布にくるまると、自分の呼吸音が荒々しく聞こえてきました。

どれくらいたっただろう…

酔っているのに目がさえてくる。

ソファーから起き上がり、水を飲みに水道まで行くと

ガサガサ…ガサガサ…

蛇口をひねろうとした手が羽上がりました。

一目散にソファーへ戻り、音に聞き耳を立てていると、それが寝室から聞こえてくる事に気付きました。

ガサガサ…ガリガリ…

ガリガリ…ガサガサ…

はっきり聞こえる何かを引っ掻く音

そのうち、音が何かを引きずる音に変わりました。

ズズズズズ~…

あの部屋で引きずる様なもの…

……棚だ!!

部屋に入ってきているらしい。

泥棒…か、それとも…

どっちでもいい、

泥棒の可能性がある以上、確認はしなくてはならない。

気は退けるが、寝室の扉に手をかけた。

スゥ~…ハァ~…

ガチャ…

部屋を見た瞬間、額から汗が吹き出した。

同時に腰が抜けた。

寝室に広がっていた光景はまさに地獄絵図。

棚は、ずらされ、そこから何かが入ってきている。

月明かりが差し、それを照らす…

それは全身がドロッとただれ、原型を留めていないような人間…

無数の腕と腕が絡み合い、溶けてくっついている塊。

その一つ一つが、ワームのように動きまわり

こちらへ向かってくる。

腐敗臭まで、リアルに感じられました。

いくつもの、ただれた頭が白目で私を見てくる。

ズ、ズズズズ…

自分の体をくねらせながら確実に近づいてくる。

もう、足先まで来ている。

殺される…

そう思った時、棚からあの文鎮が落ちました。

月明かりに照らされ、こんなにも光るのかというくらい輝き、床に落ちた文鎮は、周りを白く包み 全てをかき消した。

…………………

気付くと、既に朝。

周りには何も居なくなっていた。

あの文鎮も…

家具の配置は多少、変わっていたものの、あの爪の跡も、無くなっていました。

あれ以来、奇妙な現象は起こらなくなり、あっという間に2週間が経ちました。

引っ越す事を実家に知らせると、母はそれほど驚かず、その家であったことを話しても「あ~そう」 ぐらいの反応でした。

まるでこの事を知っていたかのように。

そういえば、母には霊感があったような・・・

これは後から聞いた話しですが、

あの家の縁側の下から、崩れた防空壕跡が見つかり、いくつもの遺骨が発見されたらしいです。

怖い話投稿:ホラーテラー ネギさん  

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