中編3
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喰い神様

もう何年も帰ってない地元。両親もなく、遠縁の親戚しか居ない。

派遣仕事の毎日にウンザリしながら自分のアパートへ帰る日々。

知らない男が部屋のドア前に座っていた。

「ヒデ!(俺の名前)」

呼ばれても男を誰だか分からない。

「タクだよ!ハトコの!」

記憶の底から日焼けした男の子が浮かんできた。

じっくりと男を見れば、確かに親戚のタクだ。

「どうしたんだよ!久しぶりだな。」

俺は驚きつつ嬉しかった。

部屋にあげて、酒を出した。最後に会った時は小学生だったタクもいっぱしの男になっていた。

久しぶりの身内の訪問は、身内と縁が薄い俺にとって意外と嬉しかった。

中学入学から地元を引っ越した俺は、地元の友人とも疎遠になり、タクからの地元話で花が咲いた。

ただ、気になる事があった。

まだ20歳そこそこのタクの左手薬指が無い。

第一関節から上が、丸ごと。

酒も進み、俺はつい聞いてしまった。

「お前…指先はどうしたんだ?事故か?」

タクは俺の全身に眼を走らせた。

舐めるような眼をしていた。

「ヒデ兄はどこも欠けてないんだな…。」

意味がわからない。

黙っているとタクは笑いながら

「知ってるんだろ?

喰い神様だよ」

と言った。

「…喰い…神様?」

タクは一瞬真顔になった後、しまったという顔をした。

〜2〜

「悪い、ヒデ兄!!聞いたからには俺と一緒だ。」

酒のせいか泣き出したタクをなだめた。

二十歳過ぎなのに情けない…と思いながら

「何なんだよ。気にしないから言えよ」

しばらくして落ち着いたタクは説明を始めた。

地元(東日本N県)の村には、寂れた社がある。

崖の下にある社は

「喰い神様」と呼ばれていたようだ。

日頃は誰も行かない。

なるべく存在を隠す。

ただ、その存在を知った人間は喰い神様へ行く権利が無差別に与えられる。

喰い神様は何でも願いを叶えてくれる。

寿命と、

喰い神様から逃げる事以外…なら。

「いい神様じゃん」

俺の軽い言葉に、タクは頭を振った。

「引き替えがある」

願いの代償は自分の身体。

願いが大きいと身体も大きな部分を納める。

ゾッとしながら俺は聞いた。

「何処に納めるんだ」

「…社裏の崖に隙間がある。そこに投げ込むんだ。」

自分で自分の身を切り落とさないと、意味が無いという。

村に片足が無い老人が居た事を急に思い出し、めまいがした。

人には見られず行動しないといけない。

自分で自分を切り落とさないと意味が無い。

代用では意味をなさない。

そのまま自力で帰れず、ショック状態や出血多量で手遅れになった人も多かった。

そう、タクは言う。

「俺はあの土地がイヤで逃げたかった。

それで指を投げ込んだ。」

願いと代償が等しければ、投げ落ちた水音がする。

それが叶う印。

足りなければ何の音もしない。

俺は全くその存在を知らなかった。両親は知っていただろうか。

確かに物心ついた時には、両親とも風呂に入れてくれたけど一緒に入りはしなかった。

タクは言う。

「髪や爪ならほんの少し叶うだけだ。

席替えや、ずる休みなんかは大丈夫…」

「芸能人や政治家も、こっそり来てるヤツはいる」

「バレないから、足の指が多い」

俺は家から逃げたいけど、逃げきれないから少し自由時間を頼んだ。

そう言ってタクはまた泣いた。

俺の所にたどり着いたのも偶然だと言う。

両親は俺をその場所から遠ざけたかったのか。

身体のどこかを納めたのか。

もう聞けない。

先の見えない将来。

危うい毎日。

単調な繰り返しの中で、俺は行きたくてたまらなくなっている。

何でも叶えてくれる崖の下の社へ。

いつまで我慢できるか俺にはもう自信がない。

怖い話投稿:ホラーテラー ヒデさん  

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