中編4
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美術室の小部屋

私が高校時代、美術部に所属していた頃の話です。

ある時、絵の仕上げに焦っていた私は、遅くまで一人美術室に残る日が続いていた。校舎の一番端にある美術室はだだっ広く異様に静かで、ちょっと怖いくらいだったが、時折グラウンドから聞こえてくる生徒の声や隣の小部屋にいる先生の物音に安心して、黙々と作業を続けていた。

ようやく絵が完成して、気が付いた時にはもう外はスッカリ暗くなっていた。早々と帰りの身支度をしようとキャンバスを片付けた瞬間、キーンと強い耳鳴りがして立ちくらみ、私はその場にしゃがみ込んでしまった。気持ちが悪くてなかなか立つことが出来ない。

貧血でもない健康体の私が珍しいな…としばらくジッとしていると小部屋からボソボソと低い話し声が聞こえてきた。

美術室と、画材があり顧問のN先生の居場所であるその小部屋は木の扉一枚で繋がっており、先生も部員もいちいち廊下には出ず、そこから部屋を行き来していた。厚みのない古い扉で多少の物音はもれてくるのだった。

相手の声が聞こえてこないので、「電話してるのかな…」と単純にそう思った。

そんなことより早く帰りたかった私は、気持ち悪いのを堪えてゆっくり立ち上がると、前を見て思わずビクッとなった。

外が真っ暗のため窓に明るい室内が映し出しされ、そこに映る私の後ろにもう一つ影があったから…。

「おい、まだ残ってたのか。いい加減帰らないと駄目だぞ」

…そこにいたのは顧問のN先生だった。私はかなり驚いて再びペタリと座り込んでしまった。

N先生は小部屋とは反対側の入口に立っており、ツカツカと近づいてくると私の前をを通り過ぎ小部屋の中を一瞥してから扉に鍵をかけた。

状況がいまいち掴めなかった私はN先生に

「先生、アレッ!?…先生??」

とすっとぼけた声をかけて、

「嘘、先生ここにいたんじゃないんですかッ??」

と続けて質問した。

N先生はずっと職員室いたとのことだった。

中に人がいるのにN先生は鍵をかけたので

「先生、誰かいますって!私、てっきり先生だと思ってましたけど…」

私がそういうと、先生は

「なんだよ〜。今オレ中見ただろ〜。いっちょ前にオレをからかってんのかぁ」

と笑いながら、もう一度扉の鍵を開けて中を覗いてくれた。

小部屋には誰もおらず、真っ暗でシンと静まり返っていた。

空っぽの部屋を見て、私はブルッと寒気がした。さっきの話し声は何だったの…?物音は?

小部屋は廊下の突き当たりでその隣は美術室。美術室から廊下は丸見えだし、どこから小部屋に出入りするにせよ、美術室にいた私には当然その姿が見えなければならないはずだった…。

N先生に奇妙な音について一通り話すと、先生も「時々ヘンなモノを見るよ…」と冗談か本気か判らない口調で言い、私をジッと見た後、ガハハと笑った。もっと詳しく聞きたかったが、遅いからまた今度なと、その日はそれで終わってしまった。

帰り道、怖くなった私は母に車で迎えに来てもらい、車中で美術室での体験を話した。母は幼い頃、何度か不思議な体験をした事があるらしい。だが、年を取ると共にメッキリ無くなってしまったそうだ。

「あんたが若い証拠よ。フフッ」と母は笑って、怯える私に大丈夫よと言うだけだった。

次の日、勿論私は昨日の続きを聞こうとN先生の所へ向かった。

が、職員室にも美術室にも先生はいなかった。他の先生に確かめると、N先生は体調不良の為、数日休むとのこと。

他の部員にも昨日の話をしようとしてやめた。一人で美術室に残りにくくなるから。そんな話をしたら嫌われるかも…とも思ったし。結局、N先生が復帰した後も例の話の続きを聞くことは出来なかった。

なんとなく先生の方が急に私を避け出したように思えた。

それ以降、わだかまりが残った私はほとんど美術室に顔を出さなくなり、N先生とも話さなくなった。

日が経つにつれ、美術室での事も薄れていき、私は無事卒業式を迎えた。一応、N先生にも挨拶にいったが、おめでとう…と素っ気なく言われ、目も合わせてくれなかった。だが、私が他の先生へ挨拶に回っていると、離れた所からジッと私を見ているのだった。

あの美術室で起きた出来事とN先生の言葉との関連が解らないまま、私の高校生活は幕を閉じた。

…体験した当時はかなり怖かったのですが、改めて書いてみるとそうでもないかな(+_+)長々と読んで頂きありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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