中編2
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箱屋

ぷち。

ぷち。

ぷち。

いらっしゃいませ、お武家様。

わたくし、このくたびれた爺がこの箱屋のあるじでございます。

と言うてもわたくしの姿など暗くて見えませぬか。

この店は夜しか開けませんので、こうして月光だけが灯りのたよりなのです。

お足元、お気を付けを・・・。

さて、どのような箱をご所望か。

いかような箱でもご用意致します。

物を入れるだけではございません。

雨が降れば傘にもなる箱。

十日間飯を入れておいても腐らぬ箱。

懐刀を八振りも仕込める箱。

いかようにも・・・

は。

人を一人入れられる箱でございますか。

ええ、造れます。そのまま箱から出ずに食う寝るが可能な作りでございますね。

実はこれ、このわたくしも、箱好きが高じ、箱に入り首だけを出して店番をしておるのです。

至極快適、なんの不都合もありません。

移動も出来、両手も自由に使える箱なのです。

しかし、そのような箱、どなたを入れなさるのです。

・・・。

なんと。

お武家様の娘御でございますか。

悪い虫が付かぬ様にと。

しかしそれはいささか行き過ぎ、さながら外道の振舞い。恨まれましょう。

・・・。

さてはお武家様、娘御へ仮想されておられますな。

道ならぬ外道の恋に狂っておしまいか。

何卒お考え直しを。

・・・なんとしてでもでございますか。

仕様がございません。承りました。

ではお武家様、右手にお武家様の身の丈程もある大きな箱がございますな。

その中、底に、箱造りの道具が置いてございます。

お手数ながら、こちらへお持ち願えませんか。なにぶん、この体なものですから。

さようです、箱の中へ一度入って・・・。

・・・。

・・・。

その箱は人が入ると自然に蓋が閉まるのです。

いえ、無理です。

もはや内からは開けられません。虎ですら破ることも出来ますまい。

お武家様、この店がほの暗いために見えませなんだでしょうが、この箱にはわたくしと今一人、

わたくしの女房が入っております。

わたくしの頭のすぐ後ろに女房の頭があるのです。

女房の浮気を恐れたわたくしが、過日、自身と共にこの箱に押し込めたのです。

わたくしもまた道を外したのです。

このような真似は誰にもなんの益も有りません。

どうかお考え直しを。さすれば蓋を開けて差し上げます。

ぷちり。

お返事をお急ぎ下さい。

長年の箱暮らしで気を病み、脳への血の流れも不足した女房はすっかり狂い、わたくしの首の肉を

少しずつ噛みちぎっているのです。

今、首の血の流れに肝要な血管が切れました。

今少し経てばわたくしは絶命致します。

何卒お早く・・・

何かおっしゃいましたか・・・

意識が薄れ、よく聞き取れません・・・

このままではお武家様は行き埋めに・・・

早くご改心を・・・

何かおっしゃいましたか・・・

・・・

ぼう。

怖い話投稿:ホラーテラー クナリさん    

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