短編2
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ヒトリアイテル

暑い日が続く夏。

都内で働くOLの恵子は、5日間だけ夏休みを取れた。

働きっ放しだった恵子にとっては嬉しい休みだった。恵子は仕事で疲れた身体を癒すため、山梨県の温泉旅館に一人で一泊二日の小旅行をする事にした。

当日、現地は雲一つない快晴。それほど暑くもなく心地良い風が流れていた。

夜には美味しい旅館料理を食べ、温泉にも入り恵子は存分に休みを満喫していた。

部屋の窓から星がきらめく夏の夜空を眺め、もう寝ようか考えていたとき、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

時計を見ると夜中の12時過ぎ。誰だろうと思いつつ、ドアに近づき覗き穴を覗くと、そこには全身黒い服に身を包み、頭にはどこかの国の高貴なお嬢様が被るような、黒くて大きい帽子を被っている女が立っていた。

不審に思いながらも女性ということでドアを開けた。

「なにかご用ですか?」

恵子がそう言うと女が言った。

「ヒトリアイテル…」

「えっ!?」

恵子は思わず間抜けな返事をした。

「ヒトリアイテル…」

女は繰り返し言う。女の声はなんだか不気味で、顔も大きな帽子で隠れて見えない。

「ヒトリアイテル…」

女は同じ言葉を何度も繰り返し言う。

恵子はこの異様な空気に酷く恐ろしくなり

「ごめんなさい!!」

と言いドアを閉め鍵を掛けて布団に飛び込んだ。

目が覚めると、窓から朝日の光が部屋に射し込んでいた。あのまま眠っていたらしい。

せっかくの休みが昨日の女のせいで台無しになり、すっかり恵子は落ち込んだ。

あと数時間だけ旅館に居れたが、観光気分では無くなった恵子は早めにチェックアウトをしようと考えた。

部屋を出て下に降りるため廊下でエレベーターを待った。

しばらくしてエレベーターが到着すると中はたくさんの宿泊客が乗っていた。それでも一人分ぐらい入れるスペースがあったので中に乗ろうとすると、奥の隅に昨日の女がいた。昨日と同じ全身黒に大きな帽子。

恵子は怖くなり後退りした。

「乗らないんですか?」

スイッチの側にいた宿泊客の男が恵子に尋ねた。

「は、はい。大丈夫です…」

恵子がそう言うとドアは閉まり下の階に降りていった。恵子は仕方なく次のエレベーターを待った。

そのとき何かが落ちてぶつかる大きな音がした。その音はエレベーターの方から聞こえた気がした。恵子が驚いていると、後ろから昨日の女の声がした。

「マタクルネ」

怖い話投稿:ホラーテラー 春山さん  

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