中編4
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災害窃盗犯の告白

(念のためですが、創作です)

私は、今は東京に住んでいるが出身は岩手だ。岩手といっても内陸部は今回の大震災の被害は悲惨というほどではなく、実家も無事だった。

しかし、中学や高校の同級生の中には、宮城県の大学や専門学校に進学する者も多く、私の親友のうちの一人、Jは石巻市の大学に行き、そのまま就職していたので、とても気になっていた。

震災後、もちろんJとはメールが通じないでいた。しかし、今日、無事でいるとミクシィ経由でメッセージが届き、返信をしたそのすぐ後、彼から電話がかかってきた。

なんでも、石巻はかなりひどい被害にあっているが、山側だったために自分が住んでいたところは無事で、また、少し山奥に入ったところに壊れていない携帯電話の中継アンテナがあり、それが非常電源で動いているそうだ。

近隣の人は、必要があるとそこに行って誰かに携帯や充電器を借りるなどすることができるらしい。

幸運にも、そのアンテナのおかげで、外部と連絡をとって物資の空輸を受けることができ、救援物資は何とか最低限届いているということだった。

Jは、そこに集まった被災者の一人から、手巻き式の充電器を1000円で借りられたという。私は、それからJと30分ほど電話で話した。

被災して不安を抱えている親友を励ませたらと思ったのもあったが、長電話になってしまったのは彼の話の内容のせいだった。

中学で出会ってすぐ、Jとは仲良くなった。ふたりとも基本的に利己的で、道徳的に悪いことも平気だという性格が一致していたせいだ。

お互いに対しては物を盗ったりしないが、一緒に釣りに行ったときなど、山奥の空家の物を盗んだり、一度だが火をつけて逃げたこともあった。

もちろん今では私も彼もそんなことはしない(はず)。ふたりとも大人だ。しかし、異常な状況では生来の性格が出る、ということもあるのだろう。

今、Jは、住人が避難した家に入って金目のものや、すぐ役に立つ工具や電池など日用品を盗んでいるとのことだった。

盗んだ物の一部は周りの被災者に分けてもいるとのことで、その都合のいい適当な倫理観に、やっぱりコイツは私の親友だと変に感心してしまった。

しかし、今後はどうしても仕方が無い場合以外は、盗みはやめるつもりだと彼は言った。

以下は、彼がおととい、ある家屋に浸入した時の話だ。

その建物は山側の集落の中でも少し本道からずれた所にあって、あとで助産師の家だと分かったのだという。

侵入したのは、比較的建物がしっかりしていて立派だったからだという(金品が見つかる可能性と、念のため倒壊の危険性を考えて)。

家に入った時、まず探すのは居間の戸棚や茶だんす。現金があることも多いし、金庫の鍵がしまわれていることも多いと彼は言っていた。田舎では自宅に小型の金庫を持っている家がとても多い。地震が起こり、とっさに金庫に貴重品を入れて逃げた人もいたという事なのかどうなのかは知らないが、それまで、Jは主に金庫から多くの収獲を得ていたそうだ。

だが、その家は戸棚やたんすにもめぼしいものは無く、鍵を見つけ金庫を開けてみたが、助産婦(当時)の資格証明書や土地の権利書などが入っていただけで、盗るべき物は見つからなかったという。

そこでJは、金庫の隣りにあった長持箱(50センチぐらいの高さの、横長の木箱、和服や貴重品をしまう。田舎のふるい家には未だにある)に手を付けることにした。

箱には南京錠を取り付けるためのカギ部分があったが、それは帯で結んであるだけだったので、簡単に開けられたという。

しかし、その中に入っていたのは、彼が探していたようなものではなかった。

箱の中にあったのは、ちょうどiPhoneぐらいの小さな木箱と、表札ぐらいの大きさの木製の板。ひと箱と一枚ずつが交互に、それが大人の体も入るような大きな箱いっぱいに、ぎっしりと詰まっていたのだという。

Jは、つい、小さな箱のふたを、開けてみてしまった。もちろん、中身が何なのか知っていれば、そうしなかったに決まっているのだが。

箱の中には白い布が敷かれていて、ホタテの貝柱のような物があった。

ここは助産師の家だ。間違いなくそれは、へその緒だった。

そして、一緒に長持箱にしまわれていたのは、寺のお札だった。

Jは、その長持箱の中身の意味をすぐに察した。

急に、同じ部屋にあった仏壇から嫌なオーラを感じ(もちろん気のせいだとは思うが)、急いで帰ってきたのだと言っていた。

***

話はこれで終わりだ。

私は彼に、「災難だったね」とだけ言った。

窃盗が犯罪だとか、災害時だからといってやっていいことと悪いことの基準は変わらないとか、そういうことをとやかく言うつもりは無い。

私も彼と同じ行動をとったかもしれないと思う。

しかし、ひとつだけ。

物は、人の手に渡ったあとは、ただの物ではない。持ち主とそれに関わった幾多の人々の人生を映し出す鏡のようなものなのだ。

例えば靴ひとつ取ってみても、はいているのがどういう人間なのか分かるものだ。金銭ですら、預金通帳の履歴という形でその人の人生を映し出す。

物を盗むという事は、何らかの形で、他人の人生の一部を奪い取る行為なのかもしれないと思った。

(繰り返しますが、これは実話ではありません)

怖い話投稿:ホラーテラー LAMさん  

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