中編5
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カミサン

私が小四の頃、S県へ引っ越した時のお話。

越して半年ほど経った夏の終り、私は自転車で、少し離れた町へ一人で遊びに行きました。

途中、少し前の夏祭りでお御輿を出していた神社があり、寄ってみました。

そのお神輿は市役所が巡回のスタート地点なのが不思議だったので、聞きたがりだった私は、丁度掃き掃除をしていた神主さんにそのことを質問してみました。すると

「御輿はこの神社を出たらまず部落を回る。市街はその後なんだ」

とのこと。

当時の私は部落問題など知らず、ブラクという所があるんだなと思い、好奇心から行ってみることにしたのです。

やがて、全体的に黒ずんだ、静かな土地に着きました。

少し荒れた舗装路を走っていると、道端に見知った顔が。転校先の同級生のサキちゃんでした。

その日をきっかけに、私逹は仲良くなり、よく部落へ遊びに行くようになりました。

学校の先生には「他にも友達を作りなよ」と言われたのが不思議でした。

ある日サキちゃんの家で遊んでいると、彼女が

「カミサン見たことある?」

「神様?無いよ」

「見たい?」

サキちゃんは家の床板を一部ずらすと、床下の土を払い、握り拳よりも少し大きいくらいの直方体の石を取り出して、

「この中にカミサンがいるの」

私は、只の石じゃないかと思っていました。

数日後、彼女と学校で会うと、深刻そうな顔で、

「カミサンが無くなったの。人に見せたっていったら、お母さんにそのせいだって怒られたの。ただでさえ私嫌われているのに・・・」

お前のせいだといわれた気がして心外でしたか、すぐに謝ってそれで済んだ気になっていました。

翌年、クラスが分かれたサキちゃんは知らない間に転校してしまいました。

驚き、寂しくなった私は、なんとなく自転車でサキちゃんの家へ向かいました。

すると・・・

サキちゃんの家は更地になっていました。

町の静けさに脅えながらも、通りがかった痩せたおばさんに

「ここ、いつから家なくなっちゃったんですか・・・」

と聞くと、

「そんなとこに家なんぞ初めから無いよ」

とにべもない返答。

でも場所は間違い無く、明らかに不自然に、その一区画のみ空き地のよようになっていました。

(私の頭が変になったのかな・・・)

記憶に自信が失せ、道の傍らに立ち尽くしていると、更地にぼうっと黒い人影が見えました。

当時既に残像現象の知識があったのですが、

当時既に残像現象の知識があったのですが、誰か知らない間にそこに立ち、去っていったのかと思うと、少しぞっとしました。

人影は自分の足元を指差しており、ふっと消えました。

見るとそこには、何かを掘った跡があり、

(!、これはサキちゃんがカミサンを埋めてた所じゃないの?)

カミサンを確認しようとしゃがんで土を払っていると、

後頭部を柔らかい指でつつかれているような感覚がしました。

振り向くとそこには・・・

5M程先、更地の端におばあさんが一人立っており、

(あそこから小石でも投げられたのかな?)

と思っていたら、

「人んちだったとこ、掘ったらいかんよう」

(!やっぱりここはサキちゃんちだ)

おばあさんは続けて

「何でも産みゃいいってもんじゃないよ。

しらんぷりしておきな」

これは私を部落の一員だと思っての言葉だと思います。

意味は今でもよく分かりません。

おばあさんはそのまま行き去り、自分の足元を見ると、カミサンが露出していました。

埋め直そうとして、カミサンに黒い字の様なものが書いてあるのに気付きました。「座」と「目」のような文字でした。

目的を失って辺りをぶらついていると、すっかり暗くなりました。

灯りが少ない町は気味悪く、帰ろうとして更地の前を通ったら、

そこにはまた灰色の人影が立っていました。足元を指差して。

ただひとつ違ったのは、

今度の人影は目があり、じっと私を見ていたのです。

大きな丸い、黄色い双眸に、暗闇の中で目が合った私は雷に打たれたようにすくみ上がり、悲鳴をあげて思いきりペダルを漕ぎました。

更地を通りすぎて振り向くと、また目が合い、

(私を見ている!!)

それも少し体勢が変わっていて、

(こっちに駆け出そうとしてる!?)

そう感じた私は、捕まりでもしたらどうしようと泣きそうになりながら、半狂乱で逃げ帰りました。

真っ暗な夜道、そこかしこの茂みや電柱の陰にあの人影が立っているような気がして、生きた心地がしませんでした。

翌日、相談相手があの神主さんしか思い付かず、私はオスワサマへ向かいましたが、当の神主さんは不在でした。

ふと気付くと境内の傍らに石人形のような置物があり、その足元には木箱があって、

ふと気付くと境内の傍らに石人形のような置物があり、その足元には木箱があって、蓋の間からいくつかの古びた紙片が、満杯のためはみ出していました。

ほとんどこぼれそうな紙を、紙屑かと思いつまむと、字が書いてありました。

「子どもを間違えました。

お返しします 目」

その後にワンポイントのような記号がひとつ。

(・・・?)

そして改めて石像を見て、

私は悲鳴を上げました。

像が、自分の足元を指差す、

あの人影と同じ形をしていたのです。

そして顔には口や鼻は無く、

あの丸い目だけが大きく

刻まれていました。

中学生になり、この事を同級生と話題にしたら、一人が少し話してくれました。

「カミサンと言うのは分からないけど、その像はオスワサマと言う、その土地の忌み神様で、難産や流産を起こす神様だったと思う。

指差された女の人に災厄が起こるので、オスワサマは誰も差さないように下を差しているの。

オスワサマの指先に行ったら難産、直接つつかれると流産するんだって」

サキちゃんのその後については分かりません。「座」「目」の意味も、起こったことの全容も謎のままです。

あの部落も今ではベッドタウンとして拓けているそうです。

少なくとも彼女と仲良くなったお陰で、こんなことがあった後も私は部落差別の意識を持つことはありませんでした。

カミサンは今もあそこに埋まっているのでしょうか。

そしてあの時、あの更地で、

私はオスワサマに

指差されたのでしょうか?

今、自分の出産が、少し

怖いのです。

怖い話投稿:ホラーテラー さわさん  

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