中編3
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窓の外

その人形は引っ越した同時からそこにあった。

教師を目指し上京してきた私は今、片手にフランス人形を持ってる。その人形は私のモノではない。

引っ越してきたアパートの寝室にあったモノで不動産屋さん曰わく「前の住人のモノでしょう」らしい。

その人形は寝室の窓の外を眺めるかの様に窓際に置いてあった。綺麗な人形だし、ワザワザ捨てる事もないだろうと思った私はその人形をそのまま飾っておく事に決めた。

暫くして、アルバイト先で嫌な事があった。落ち込みながら一人家に帰宅するも上京したばかりの私には恋人はおろか友達すらおらず自棄酒をするしかなかった。

そんな時不意に目が入ったのは窓の外を眺めていたフランス人形。

なんとなく私はその子を手に取り、今日あった事やムカついた事を喋りかける。

アルコールも手伝ってかいつの間にか私は人形を抱えたまま眠っていた。

「んんっ……あ、れ?」

目が覚めた時、人形は窓の外を見ていた。

昨日は確かに手に取ったのに?と疑問に思いながら私は人形をベッドに座らせる。

アルバイトから帰るとベッドに置いたはずの人形はまた窓際に座っていた。

気味が悪い、とは思わなかったがどうしてだろうと言う疑問はある。

しかし考えてもわかる訳でもないし私は気にしなかった。

それからの私と言えば友達や恋人ができ、アルバイトも順調でまさしく順風満帆な日々。つらい事も楽しい事も全てそのフランス人形に話したし、そのフランス人形に話すと楽になれる。

上京してから三年目。

教師の資格を取り終え勤務先が決まり、付き合っていた彼氏にプロポーズされた。

それと同時に私は引っ越しを決め、勤務地の近くのマンションを彼と一緒に借りる。

荷造りをしてる時、フランス人形をどうするか悩んだが三年も一緒にいて愛着もある。私はその子を連れて行く事に決めて、人形をダンボールの中へとしまう。

引っ越しも終わり私と彼は一緒に眠っていた。その時――

ガタゴトッガタガタガタ

ボーン、バサドサバサ

ダンボールが動く音、何かが飛び出した音、モノが落ちた音に目が覚めた私と彼が電気をつけるとそこには

ダンボールが破れ荷物が散漫としていた。

翌朝、そのダンボールを片していると私はフランス人形がない事に気がつく。

どこを探してもない人形に私はまさかと思い前のアパートまでバイクを飛ばした。

引き払う前で良かったと思いながら、私はそっと寝室のドアをあける。

すると人形は、そこにいた。

いつもの窓際の定位置に座って窓の外を眺めている。

「どうして、いつも眺めてるんだろう」

今まで微塵も疑問に思わなかった事が気になり、私はその人形の視線を辿る為、窓をあけた。

窓から見えたのは、男の子だった。

正しくは男の子の人形。それは正面にある家の窓に飾られたまったく同じ種類の人形。

ああ、そうか。

この人形はいつも彼を見ていたんだ。

私は居てもたってもいられなくなり

人形を片手に正面の家の人に事情を説明して人形を見せる。

すると家の人はニコリと笑って人形を受け取ってくれた。

かなり話しのわかる人で良かった、と私はほっとして、そのままバイクにまたがり新居へと帰ったのだった。

時々、様子が見たくてその家にお邪魔させてもらう事がある。

最近はその家に娘が生まれ幸せそうだ。

同時に小さな女の子のフランス人形を誕生祝いに両親が贈った。

今もあの人形は、男の子と小さな女の子と幸せそうに窓辺に飾ってある。

怖い話投稿:ホラーテラー 紅さん  

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