中編2
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洗面台

数年前、Aさんは就職を契機に念願の独り暮らしを始めることにした。

会社からほどちかいワンルームのマンションを借りると、早速引っ越した。

部屋に荷物を運び込んでいるうちに、ユニットバスが真新しいものに交換されていることに気がついた。

おかげでお風呂はもちろん洗面台もピカピカだ。

たしか不動産業者に案内されたときは、古いままだった。

Aさんは思ってもいない就職と引っ越しのお祝いだと喜んだ。

引っ越しの片付けもようやく終えた夜のこと。

Aさんは、化粧を落とそうとバスルームに入って洗面台の前に立った。

洗顔して、顔を上げたときだった!

鏡に映った自分の顔が、紫色に腫れ上がった若い男になっている。

その目がAさんを睨んだ。

途端に意識が遠くなった。

朝、水の流れる音で目を覚ますと、ユニットバスの中で倒れていた。

洗面台では、蛇口から水が流れっぱなしになっている。

いけない、止めなきゃ。

慌てて水を止めた後、念のため病院にいくことにした。

医者からは、貧血だろうと診断された。

Aさんも、引っ越しの疲れと貧血が重なって変な夢でも見たのだろうと、それほど気にはしなかった。

一週間ほどして、友人が部屋に遊びに来てくれた。

二人で酒を飲んでワイワイ騒いでいるうちに酔いがまわり、Aさんはそのまま寝込んでしまった。

朝、目を覚ますと、部屋の中に友人の姿がない。

どこにいったんだろうと、起きたてのボンヤリした頭で考えているうちに、バスルームの方から水の流れる音が聞こえてくるのに気がついた。

きっと顔でも洗っているのだろうと、Aさんはしばらくの間、友人が出てくるのを待っていた。

・・・・・・あれ???

水の音が止まらない。

まさか!!!!!

と思い起き上がって、ユニットバスの中を覗くと、友人が倒れている。

蛇口からは水が勢いよく流れ、洗面台の鏡は粉々に割られていた。

大変!!と、慌てて救急車を呼んだ。

友人が担架に乗せられて、部屋の外へと運び出されていく。

救急車の周りには、騒ぎを聞きつけた野次馬でいっぱいだった。

友人に付き添いながら救急車へ向かうAさんの耳に、今度もまたお風呂場で自殺かしら?何回目?

このマンションばっかり続くわね。

などと、野次馬の話している声が聞こえた。

病院で意識が戻った友人によると、寝る前に洗面台で顔を洗っていたら、鏡の中に紫色の顔の男がいたと言う。

反射的にクレンジングオイルのビンを鏡に、投げつけると、そのまま気が遠くなったのだという。

気がつくと友人は、ぶるぶると震えていた。

Aさんは、マンションに戻ることなくそのまま実家に帰ると、二度と部屋に戻らないまま解約した。

大家さんは、この十日にも満たない短すぎる解約願だったにもかかわらず、理由を聞くこともなく応じてくれたという。

怖い話投稿:ホラーテラー 銀色の鷹さん  

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