短編2
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抜け毛

Aさんはここ最近、気になることがあった。

朝、目が覚めると布団の周りにたくさんの抜け毛が散っていることだった。

四十五歳をすぎ、そろそろ本気で抜け毛を気にしないといけない年になったのかぁ……。と寂しく感じたのだという。

とはいえAさんの家系には髪の薄い人はいなかったし、Aさん自身も髪の毛がふさふさで、抜け毛の心配など一度もしたことがなかった。

それが最近になって、朝、目が覚めると布団の周のあまりに増えた抜け毛に気がついて、内心穏やかではなかったという。

ただ気になることが二つあった。

ひとつはものすごくたくさん抜けている日と、そうでない日があった。

もうひとつは、抜け毛が多い日は、布団の上ではなくその周りに落ちていることだった。

ある週末、友人が訪ねてきた。

Aさんの部屋で酒を酌み交わして、そのまま友人は泊まることになった。

同じ部屋に布団を二つ並べて床についた。

明け方近く、Aさんはトイレに目が覚めた。

起き上がろうと寝返りを打って驚いた。

隣の布団で寝ている友人の枕元に、見たこともないお婆さんが座っている。

暗い部屋の中なのに、首から上だけが、凄く白く見えた。

よく見ると、髪の毛も真っ白で後ろで束ねて、油でも塗っているかのようにピッシリと整えられて、テカテカと光って見えたという。

そのお婆さんが、友人の顔を覗き込んでいる。

Aさんは怖いことと、何が起こっているのかわからないこととで、動けずにいた。

お婆さんは友人が目が覚めないことを確かめたのか、ゆっくりと頭に手を伸ばすとより分けでもするかのように髪の毛をいじり始めた。

何をするんだ?

その手が止まったかと思うと、髪の毛を一本抜いては放り出し、一本抜いては……と、次々と抜き始めたのだ。

抜いては右に、抜いては左にと次々と、周りに散らしていく。

何本抜いたかはわからないか、四、五十本は抜いたように思えた。

その手が止まったと思うと、また髪をより分けてにっこりと笑った。

白い顔だけしかわからなかったが、朱色のような唇が横に伸びて、わずかに見えた口の中は真っ黒だった。

全身にぞっと鳥肌がたった。

その途端にお婆さんが消えた。

これは夢なんだろうかと思ったが、友人の布団の周りには抜かれた髪の毛が散っていてツンと鼻を突く油の匂いが部屋の中に残っていた。

怖い話投稿:ホラーテラー 銀色の鷹さん  

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