短編2
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いいひと

その男は雪山登山に挑戦していた。

今までも、「そこに山があるから」精神であらゆる山に挑んできた。

彼にとって肺がきつくなる感じや周りの寒さを跳ね返すのがとてつもない快感だった。

しかしこの日は少し状況が違ったようで、雪がしこたま降っていた。

やや焦りが出てきた。

地図の誤読によるルートの間違いがあったようだ。

いわゆる「ホワイトアウト」というやつである。

いつも細心の注意を払って登山をするため、こんなシチュエーションは初めてである。

絶望感に吹雪かれていた。

体力が溶けるように無くなっていく。

「あぁ、もう…。」

彼は覚悟した。

大好きな山に骨を埋められるならそれでいいと思った。

横たわり、目を閉じる。

どれくらい時が経ったのか。

まだ死んでおらず、一度自身を確認した。

体は動かない。

その時、何者かに体を持ち上げられるのを感じた。

「動物か…。食ってもうまくないぞ。」

また気絶してしまった。

…。

暖かい!

彼は屋内にいた。

暖炉には力強く燃える炎・食欲をそそる香り・優しくのしかかる布団。

何が起きたのか全く分からない。

「気がついた?」

女性の声。

「ん?」

振り返ると手にスープをもった女性がいた。

「はいどうぞ。」

カボチャのスープだった。

「ありがとう。」

素直に受け取り、一口飲んだ。

「あぁ、なんて優しい甘さなんだ…。」

思わず心で思った。

暖かさが五臓六腑を駆け抜けていく。

二口目からはかなりの速さで飲んだ。

その様子が滑稽だったのか、女性はくすくす笑った。

「はぁ~うまかった!どうもありがとう。」

女性は微笑んで皿を下げてくれた。

男は自分がどうなったのか知りたかった。

「ねぇ、君が助けてくれたの?」

「そう。」

寡黙な人なのか、口数は少なかった。

「詳しく教えてくれない?」

「ええ、この辺りにはよく遭難者が出るわ。雪をめくれば遺体がたくさん出ると思うけど。それで私はこの山もいろんな顔を知ってるから何か役に立てればいいなと思って。」

「へぇ…。」

一瞬ぞっとしたが、自分がそうならなかったことにホッとした。

「なんかお礼しないといけないね。」

「そんな…、いいのよ。」

なんていい人なんだろう、助けたことに見返りを求めないなんて。

ますますお礼がしたくなった。

その夜、彼女と談笑した。

こちらに心を開いてくれたようで饒舌になった。

安心感がわいてきたせいか猛烈な眠気が来た。

彼女の声が薄く聞こえるなかで眠ってしまった。

彼女の目が変わった。

「チッ!! 手間取らせやがって。さっさと寝ろよ。」

さっきのスープ、睡眠薬が入っていたのだ。

この後男がどうなったかは知らない…。

怖い話投稿:ホラーテラー tkさん  

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