短編2
  • 表示切替
  • 使い方

どんどん飛び出す

よし、ここいらで秘蔵の話をば…

これは私がBARで働いていたときにお客さんから聞いた話…

その方はAさんとしよう。Aさんはキャンプが趣味で、その日も一人でソロキャンプに出掛けたそうな。

むかったのはオートキャンプ場の類では無く、山深い河原の近くのとある開けた場所。

明るい内にテントや焚火の準備をし、その後は川に夕飯のおかずを求めて釣りに行ったそうな。

余り釣り人が入っていないせいもあってか、釣果は好調。

川を上りながらついつい深入りし、帰ってくる頃にはすっかり暗くなっていたそうな。

「大分遅くなっちまったが、尺の岩魚も上がったし、焚火をしながら骨酒と洒落込むか」

元より一人の気楽なキャンプ。大物が釣れた嬉しさも伴って、ウキウキと川を下る。遠目にテントが見える辺りまで帰ってきた。

が、そこには信じられない光景があった。

開け放されたテントの中から凄まじい勢いで、人の様な「なにか」が飛びだしている。

その「なにか」は一様ではなく、老若男女様々に見えた。

状況を咄嗟に判断できず、立ち尽くすAさん。だがその間にも勢いは止まらず、どんどんどんどん飛び出してくる。

「これはヤバすぎる」

冷静さを取り戻すと、急に恐怖が沸いて来た。

急いで車に乗り込み、なにもかも置き去りにして登山道を後にした。

ほうほうの呈で帰宅すると、焦燥していたのもあってか、すぐに眠ってしまった。

後日、日が経って多少落ち着いたので、置き去りにした道具を回収しに行く事にしたAさん。さすがに怖いので友達と二人で件の場所に向かったそうな。

道具はあらかた残っていたが、テントがない。そこでその区域を管理している所に行っておっちゃんに事情を説明すると、「ああ、こっちで回収したから、あるよ、だがねぇ…」

と濁す。

いやいや、あるなら持って行きますから、とおっちゃんからテントをもらいその日は帰路に着いた。

「山はいろいろあるからねぇ」

帰り際おっちゃんが呟いた言葉の意味は次の天気の良い日に思い知る事になった。

「いやぁあれはなんだったのかな」

喉元過ぎればなんとやら、すっかりあの時に怖さも忘れ、一人マンションの屋上でタープやらテントやらを干そうと、袋から出した時テントを広げた時、Aさんは再び戦慄した。

テントの中、床部分

隙間の無い程びっしりと着いた足跡。

その日以来、Aさんはキャンプに行ってない。

怖い話投稿:ホラーテラー 保3止めさん  

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ