中編3
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回天

僕は俗に言う「霊感」は乏しく、またそういった体験も殆どありません。

その中で唯一体験した話をさせて頂きたいと思います。

過剰な怖さは無いけれども、自らの教訓として今も活きている話…

もう十年も前、僕が高校生だった時の事。

幼稚園の時以来の腐れ縁。もりっちから当時親に頼み込んで買って貰ったばかりの携帯に着信があった。

「Sさんのお父さんが亡くなったので、明日お通夜の手伝いに行く事になった。お前も世話になっているんだから、行くだろ?」と。

Sさんは僕が住んでいるS区の児童館の職員で、小さい時からキャンプに連れて行って貰ったり、麻雀を仕込んで貰ったりと、悪ぶりたい年頃の僕等をなにかと暖かい目で見守ってくれている、いわば地元の頼れるおじさんだった。

特に予定も無かった僕は、軽い気持ちでそれを引き受け、普段滅多に着ないスーツを着る事に、高揚感すら覚えていたんだ。

当日は生憎の天気で、小雨が降る中僕は駐車場の一画を受け持ち、傘を片手にニンジンを振りつつ、来訪する車の誘導にあたっていた。

「軽く請けたはいいが、雨だし面倒くせーなぁ」

Sさんには世話になっているけど、お父さんには会った事もないし、雨が降り続けるのも手伝って、僕の心は次第にぞんざいさを増していった。

「かったり~な~」と誘導を続けていたら、先輩が駐車場の棒振を代わってくれたので、御焼香に伺う事となった。

だが、面識の無い故人に対して畏敬の念のまるでない当時の僕。

「いや~やっと帰れるわ~どうもどうも、ご愁傷様でした~」

こんな感じの軽い心境であった。

お手伝いの役を果たし、さすがに神妙にSさんに挨拶し、もりっちと帰路に着いた僕。

慣れないスーツを着てお手伝いしてきた疲れもあってか、すぐに床に着き、なんの不安も無く眠りに落ちた。

その後に起きる事も知らずに、、、

どれくらいたっただろう、随分熟睡した後、意識が半ば覚醒してきた時に妙な感覚に襲われた。

仰向けに寝ていると、急に枕が左方向にスライドした気がした。

「あれっ」と思ったが、そのままの速度でスーっと滑らかにスライドしていく。

(だが、僕のベッドは左側が壁に密着しているので、仮にスライドしていても頭が壁にぶつかるはずなのだ)

だがその勢いは止まらず、調度下腹部辺りを中心にして自分の体が時計の針の様に回転し始めたである!!

「おいおいおいおい」

そんな事を心の中で唱えながらそのままに回転するにまかせていると、ちょうど一周して元の位置に戻ってきた瞬間、胸から顔の辺りに今まで味わった事のない「何か」が迫っていた。

次の瞬間ヴゥワァーっと何とも言えない厚みのある、生暖かい様な空気というか、息遣いがのしかかってきた!!

「ヤバいヤバいヤバいっ」

金縛りにすらなった事の無い僕は仰天し、ひたすら目を固く閉じて「それ」が過ぎ去るのを願うのみであった。

きっと目を開けてしまっていたら、心に傷を残すくらいの「何か」が見えていただろう。

とはいえ僕は堪えた。

数秒だったのか、数分だったのか、ともかくその気配は消えて、バッと飛び起きたら辺りは明るく、携帯を見たら既に午前10時を廻っていた。

辺りの明るさに微かな安心を覚えつつ、僕は隣室にいるおかんの元に急いだ。

「今っ、今やばかったよぅ」

事の顛末をおかんに告げ、冷静に自分の行為を振り返る。

「俺は人が亡くなったっていうのに、ヘラヘラしてた、ああいう所に行って調子こいているのがいかんかったんだ…」

すぐさま神棚に行って、自分の浅はかさを詫びました。

その後一度二度同じ感覚の金縛りに会いましたが、徐々に薄れ、今では全くありません。

他に全くと言って良い程その様な体験が無い僕に降り懸かったこの出来事。

僕自身は「理由はどうあれ亡くなった方には敬意を払わなくてはならない」という事と「火葬場、お墓等に訪れる場合は、注意を払わなくてはならない」という事を身に沁みて感じました。

願わくば、これをご覧になった方々も死者を蔑む事無く、また死に纏わる所に行く際は十分に配慮して頂きたく存じます。

お付き合い頂き、ありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー さん

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