5〜6年前の話。
都内へ転勤となった。
引っ越しのため不動産屋を調べ回りようやく新居が決まった。
築5年のマンションで1DKの角部屋だ。
好条件だが駅から若干遠いため家賃も抑えてあるらしい。
入居して一週間ほど経った頃に異変は起こった。
深夜2時頃ふと目を覚ますと玄関から物音が聴こえる。
思わず耳を澄ます、、
「ドンッ...ドンッ....ドンッ...」
どうも誰かがドアを叩いている、、、
それも握り拳でノックするような、、、
「コン、コン」とか「コツ、コツ」
という音ではなく
手の平全体でドアを叩いているような、それも弱々しく。
不審に思い寝室のドアを空けて玄関へ通じる廊下へ出る。
音は止んだ。
玄関まで行き、覗き穴で確認する。誰もいない。
悪戯かと思いその日はそのまま寝たがこんな現象が2〜3回続くと不気味になってくる。
心なしかドアを叩く音が強くなってきているような気さえしてくる。
まるで「入れてくれ・・・」と主張しているかのように。
自分には霊感は全く無いが、心霊現象では?と疑いたくもなる。
特に身体の不調は感じられず金縛りにあうようなこともなかったが。
深夜に物音で目を覚まし耳を澄ましていると眠れなくなる、これでは寝不足で体調不良になってしまう。
管理人に事情を説明したがこのマンションは建ってから日も浅く、そういった心霊現象が起こるような事件は今までなかったし他の居住者からもそういった苦情は来ていないとのこと。
僕の前の入居者のことも聞いてみたが別に心霊現象が原因で引っ越したわけではないそうだ。
ただ仕事上の事情とかで突然退去届けを出して来て、管理人が2〜3日後に部屋を訪れた際はすでに引っ越した後で部屋はもぬけの殻だったとか。
敷金から補修費等を差し引いても余剰金が発生するため返還したいのだが連絡がつかないと管理人がこぼしていた。
今回の現象と関係ありそうだがこれだけではなんとも言えない。
そこで友人に相談してみることにした。
高校の同級生だった友人は心霊含む超常現象に関心が深く大学を卒業後出版社に入り、今は退社して心霊現象研究家としてフリーライターをしている。
また、彼はいわゆる霊が視える体質らしいのだが、あまり公言したがらない。
霊視が出来るなら心霊現象研究家として箔がつきそうなものなのだが、あえて隠しているそうだ。
なぜか?と聞くと、、、
「心霊現象研究家なんてただでさえ胡散臭いのに霊視が出来るなんて胡散臭さ倍増だろ。
霊視が出来る心霊現象研究家なんて逆に説得力が無くなるよ。
それに僕は所謂霊能者じゃない、視えるだけでお祓いが出来るわけじゃないし」
彼と会う約束を取り付け。休日に我が家に来てもらった(玄関をくぐるときの彼の表情が若干強張っていたように見えた)
彼はまず玄関を調べ、それから部屋全体を調べ始めた。
特に床や壁に目を凝らしている。
すると、ふいに友人が言った。
「今は詳しくは言わないが引っ越したほうがいい、新居が決まるまでは僕の家に居候してもらって構わないから」
その場で必要なものをトランクに詰め友人宅へ。
しばらくは友人宅から出社しながら新居を探した。
一ヶ月後、新居も決まり、引っ越しを終え、しばらくして、お礼も兼ねてその友人と飲む約束をした。
友人からあの時の状況を詳しく聞くことが出来た。
「あの部屋には結界が張られていたんだ」
と友人は言う。
僕は「護符やお札のようなものはなかったけど....」と反論したが結界を張るにも様々な方法があるらしい。
「じゃあ、僕の前の入居者が?」
「多分、そうだろう」
「前の入居者も結局、ドアを叩く音に耐えかねて出て行ったのかな?」
「いや、違うね.........逆だからさ」
「逆?」
「あの結界は入れない為の結界じゃなくて出さない為の結界なんだ。
なんでわざわざそんな結界を張ったのか興味があるね」
「え?・・・じゃあ、あの音は・・・」
入れてくれじゃなくて出してくれとドアを叩き続けていたのか?
ということは、、、、あの部屋には既に、、、
僕の顔から一気に血の気が引くのを見て友人は事も無げにこう言った。
「あぁ、ずっと玄関に立っていたよ。君が怖がると思ってその場では言わなかったけど」
怖い話投稿:ホラーテラー 庄七堂さん
作者怖話