短編2
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慈母

さるお寺の副住職から聞いた、

彼がまだ幼い頃の話。

夜中に突然目が覚めた。

おしっこに行きたい。

襖を開けて廊下に出た。

厠に行くためには、廊下を通り、

本堂を過ぎて、

渡り廊下を通る必要がある。

目の前の廊下は長く暗く、

渡り廊下を通るためには、

外に出なければならない。

尿意と恐怖にさいなまれていると、

向かいの障子がスゥと開いた。

一瞬驚いたが、

出てきたのは母だった。

当時彼には妹が産まれたばかりで、

母はいつも向かいの部屋で、

妹を寝かしていた。

母の手引きで厠には行けた。

行き帰りの間、

母は一言もしゃべらなかったが、

終始笑みを絶やさず、

ずっと手を握っていてくれたという。

次の日、

自分の名を呼ぶ声で目を覚ますと、

目の前に母がいた。

朝だというのに寝巻きではなく、

外に出る時の格好だ。

母の話によると、

昨日彼が寝床に入ってほどなく、

妹が熱を出したのだと言う。

母は父と共に病院に行っており、

熱も下がったので今帰ってきた、

K(彼)のことは住み込みの人達に任せたけど、

ほっといてごめんネ、

ということだった。

彼はわけがわからず、

父にそのことを話した。

すると父は黙って彼を本堂に連れて行き、

鎮座する仏像の前に彼を抱き上げた。

彼はあっ、と声をもらした。

その仏像の、慈愛に満ちた笑みは、

昨晩の母とそっくりだった。

「うちの観自在菩薩さまだ。

お前はいい跡継ぎになれるぞ。」

そう言って父は、

彼の頭をしきりに撫でたという。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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