中編6
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アフターケア

最近、高校の頃からの友達であるAの様子がおかしい。

どうおかしいかと言われても言いようがないのだけど。

なにやら常に上機嫌だ。

「どうしたの最近?なんか、テンションが高いっていうか

 何か嬉しいことでもあったの?」

と電話口で聞くとAは意味ありげに答えた。

「ん~秘密♪」

「……さては彼氏でもできた?」

私は恐る恐る聞いた。

「あ、やっぱ分る?」

図星だったようだ。

しかし、私はそのことをなぜか素直に喜べなかった。

それからというもの、Aは電話で彼氏の事ばかり喋るようになった。

私はそれが気に食わなかった。

それはAに彼氏ができたという羨ましさというよりは

Aをその彼氏に取られたという悔しさから出てきている感情であることは明白であった。

私はもちろん同性愛者や性同一性障害ではない。

少なくとも自分ではそう思っている。

だが、今回のAのことについては明らかに私は嫉妬感を抱いていたのだ。

私はAと共通の友達である、Bに相談するようになった。

「ねぇ、やっぱりおかしいと思わない?」

「なにが?」

「Aの彼氏のこと……」

「またぁ?

 アンタちょっとおかしいよ。

 Aの友達だったら、素直に喜んであげたらいいでしょ」

「でもさぁ、私も人のこと言えた義理じゃないけど

 Aって、そんなに積極的な方じゃないっていうか、人と話すの得意な方じゃないしさ

 人見知りするタイプじゃない?」

「そう?でも世の中にはAのような人がいいって男が居たって別に不思議な事じゃないわ」

「ええ、でもそれにしたっておかしいって、私やっぱりAって騙されてる気がするの

 やぱっり、私Aの彼氏に一回会ってみる!!」

「やめなさい」

「何で?」

「Aだって、十分もう大人なのよ。自分の行動は自分で責任とれる筈。

 貴女が口出しすることではないわ」

Bにそう言われたものの、私はどうしても諦めることができなかった。

ある日、私はAにその彼氏を紹介するように言った。

Aはそれを拒否した。

それからというもの、私とAとの関係は悪化を辿っていくばかりだった。

最近では電話すれば必ず口喧嘩をするようにさえなっていた。

そしてはそれは、いつもの様に電話で喧嘩している時の事だった。

私はついに我慢しきれなくなり、言ってはならない事を言ってしまった。

「何で会わせられないのよ!!ホントは分ってるんだからね!!

 アンタに彼氏なんて居やしない!!見栄はってるだけ!!」

「そんな事ない!!ちゃんと居るもん!!」

「なら、会わせなくてもいいから答えなさいよ!!

 どこで知り合って、どうやって付き合うようになったのかを!!

 人見知りで根暗なアンタがどうして彼氏なんてできたのかを」

「……」

Aは黙り込んだ。

「ほら見なさい、答えられないじゃない!!

 夢見てんじゃないわよ、この妄想女が

 アンタに彼氏なんてできるわけないじゃない、鏡見なさいよこのブサイク!!」

その日の事は非常に後悔した。

電話切った、その瞬間から謝りたい気持ちでいっぱいになった。

しかし、その気持ちとは裏腹に、私は素直に謝ろうという勇気がどうしても出なかった。

そうした悶々とした日々が幾日か過ぎ去ったころ。

私はAが自殺したことを知った。

私はひょっとしたらAを自殺に追い込んだのは自分ではないか?という可能性に震えた。

思えば、Aは私の唯一と言える友達だった。

その貴重な友達を私は殺したのかもしれない。

私は自らの罪悪感と友達を失った悲壮感に悩まされた。

さらにそれから、数日したころ一本の電話がかかってきた。

「毎度、お世話になっております。

 こちら超メンタルヘルスケア専門業の○○です。」

「はい?」

「ですから、こちら超メンタル……」

「いや、だから。あんた何言ってるの?」

「はい、今日はですね御用聞きと言いますか……」

「つまり個別営業?」

「はい」

「なんて言ったっけ?超メンタル……」

「超メンタルヘルスケア専門業の……」

「まぁ、いいわ。それってっ結局なんなの?」

「良いご質問ですね。

 簡単に言いますと『心の隙間お埋めします』って感じです。

 現代人の心の……特に孤独感を解消させるために私達は日々精進しておりまして

 例えば……『恋人を作る』と言ったような事をさせていただいたりですとか」

「恋人を作る??」

「ええ、とはいっても実際作る必要はないんですよ。

 詳しくは企業秘密なんですが簡単に言えば催眠術や暗示と言ったものを利用しまして

 あたかもそういった人が居るという事をお客様に信じ込ませるわけですね。

 そして、私たちにそれを依頼したという事実さえも記憶から消させて頂いております。

 もちろんその後のアフターケアも当社は全力で対応させていただいております」

「ひょっとして…Aはアンタの客だった?」

「ええ、ご察しの通りでございます。A様は当社の顧客でございました。

 今回は残念なことに、A様は当社のサービスを受けてる間に暗示が解けてしまいました。

 そして、事実を知ったA様はそん現実に耐えきれなくなり……」

「一つ聞きたいのだけど……Aの暗示が溶けてしまったのは私のせいなの?」

「ええ、それも一つの要因でしょうね。

 暗示がかけられて日が浅かったことともありますが

 ああいう、矛盾を突かれるような質問をされますと暗示が溶けてしまう可能性がございます。

 当社としても顧客を一人失ったわけでして……あ、ご安心ください。

 当社としましては、別にそのことについて貴方を追求しようなどと思ってはおりません」

「じゃぁ、なんなの?」

「ですから、個別営業です。

 A様は実は我々と二つの契約を結ばれていました。一つは先ほど言った『恋人を作る』。

 もう一つは、それより以前に結ばれました契約で『友達を作る』でした。

 

 先ほど実際に作る必要はないと申し上げましたが。

 当社はそれでも人と人とのつながりは重要だと考えております。

 『友達を作る』を希望されたお客様同士での需要と供給が満たされる場合

 私どもはお客様同士を友達とさせていただいております。

 設定も様々ご用意しておりますがこの場合は高校の同級生とさせて頂きました。

 

 需要と供給が満たされているならわざわざ暗示にかけなくても?

 思われるかもしれませんが、実際当社のお客様はコミニケーション能力に欠けた方が多くおられまして

 お客様の自主性に任せますと人間関係を築きにくいという事情からこのような対応をさせていただいております。

 もう、薄々お気づきになられてると思いますが。

 このA様のパートナーとなったのが貴方様でございました。

 今回の事で貴方様の契約期間も強制終了となってしまう訳ですが

 再度、私どもと『友達を作る』を契約なさるかご確認をさせて頂きたくお電話差し上げました。

 実績のほどは現在感じられている通りだと思います。

 全く違和感なく、A様を高校の頃からのお友達と認識されていると思うのですがいかがでしょう?

 

 新規契約を結ばれますでしょうか?」

「なるほど……つまり、アンタは私の友達でもなんでもなく

 アフターケア要員だったわけね……B」

「ええ、繰り返しますが当社はアフターケアにも全力で取り組まさせて頂いております」

怖い話投稿:ホラーテラー 園長さん  

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