中編6
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アフターケア(適正)

※以前、投稿した「アフターケア」を前提にしてます。

 そちらを参照してからお読みいただけると幸いです。

その診察室には医者、患者、そしてその付き添いの三人がいた。

「家でのお子さんのご様子はどうですか?」

医者は聞いた。

「いたって特に変わったことはございません」

「そうですか、食事や睡眠はちゃんととっていますか?」

「はい、それも問題ありません」

「そうですか」

医者はそれを聞きながら、カルテに二、三書き込むと、患者に振り向いた。

「坊や、ちょっと見させてもらうね……少し我慢しててね」

医者は口の中を見たり、服を捲らせて一通り触診をなどをすると

「うん、大丈夫だね」

とつぶやき、今度は付き添いの方を向いた。

「経過は順調みたいですね、でもこの病気は期間が長く完治の難しいものです。

 まだ当分は定期的にこちらに来て、診察を受けてください」

「はい、分かりました」

「ほかに何か聞きたいこと心配な事などありますか?」

「いえ、特にはございません」

「そうですか、ではお大事に」

母親は立ち上がった。

「ありがとうございました、ほら、コウちゃんもお礼言いなさい」

「せんんせい、ありがとうございました」

「はい、お大事に」

一月前。

その家に一人の営業マンやって来てインターフォンを鳴らした。

彼はすでに幾度かこの家を訪れており、一週間ほど前に一つの契約を成立させている。

『どうぞ、玄関は開いております。入ってください』

インターフォンからの返答を確認すると、彼は玄関に向かった。

その家の主は裕福らしく、敷地の大きさ、門扉の造り、家の構造などどれも立派だった。

「どうぞ、お上がりになってください」

さすがにメイドまでは居ないようで、彼が玄関に入るとその家の主婦らしき女性が出迎えた。

「失礼します」

営業マンらしく、軽く礼をすると彼は案内されるまま客間に使われていると思われる部屋に通された。

案内した女性は、彼を部屋に通すと、一度家の奥に消えたがすぐにお茶を持って現れた。

「どうぞ、お座りになってください」

「では失礼します」

二人は机を挟んで向かい合うようにソファに腰掛けた。

「で……実際に目の当たりにされて如何ですか?私どものサービスは?」

「ええ、驚きました。失礼な話、初めてお話を伺ったときは詐欺か何かではと思いましたが……」

「ははは、皆様よくそう言われます。

 大体、『超メンタルヘルス業』って言うネーミングが胡散臭い」

「まぁ」

彼女は笑った。

彼は営業マンとして確実に信用を得ているようであり、会話にも淀みがない。

「でも、あなた方のサービスの質はこの一週間でよく分かりました」

「ということは……私どものことを信用いただけたということで宜しいでしょうか?」

彼女は無言で頷いた。

「ありがとうございます。

 では、当初から私どもがご提案させていただいている、二つ目の契約も結ばれるということで宜しいですね?」

「ええ、もち……」

彼女の言葉をさえぎるように、家の奥から声がした。

「ママァ!!ジュース何処にあるのぉ!!」

彼女は微笑むと「少し失礼します」と言葉を残し、部屋を出て行った。

家の奥から、声が聞こえてくる。

『ママァ、ジュースどこぉ?』

『コウちゃん、ジュースはここにあるって言ったでしょう?』

『あ、あったぁ!!』

『今、ママはお客様と大事なお話してるから、コウちゃんは少し静かにしてもらえる?』

『うん、分かった!!』

彼女は部屋を出たときと同じ笑顔で客間に戻ってきた。

「ほんとに手のかかる子……」

「でも嬉しそうだ」

「ええ、なんだか死んだあの子が本当に戻ってきたみたいで……

 それにもう少ししたらこの苦しみからも解放されると思うと……」

しばらくの間沈黙が客間に流れた。

「お子さんが亡くなられてから……半年……ですよね」

「ええ」

「しかし……旦那さんはよく承諾なさいましたね」

その瞬間、彼女は表情を一変させた。

そこには明らかな怒気が含まれている。

「あの人はのことはどうでもいいんです!!」

「……」

「確かにあの人のお陰で私たちは楽な生活をさせてもらえてるし

 こんな分不相応な家にも住ましてもらっています

 それにこの年で一生お金には困らないほどの貯金もできた

 でも、あの子が危険な状態だったときもあの人は……仕事仕事って結局一度も会いに来なかった!!

 あの人はこのことについて何一つ言う権利はありません!!

 贖罪の機会を与えられただけでもあの人は感謝すべきなのです!!」

「失礼しました」

彼は頭を下げた。

「いえ、あなたは何も悪くありません。悪いのはあの人です。」

 

彼女はきっぱり言った。

「話が途中でしたね

 最後に確認します、われわれと二つ目の契約を結ぶということで宜しいですね?」

「はい、もちろんお願いします」

「では、再度契約内容をもう一度簡単にご説明させていただきます。

 今回、貴女方ご夫婦が結ばれ筈だった契約は『子供作る』でした。

 しかし、それには二つの問題がありました。

 一つは、ご夫婦それぞに暗示をかけることが現実的に無理であること。

 要因としては、貴方と旦那様の意識の中にお子さんを作られた場合

 それぞれの意識でのお子さんの同期がとれないからでした。

 

 つまり、貴方が見えるであろうお子さんと旦那様が見えるであろうお子さんとの間に差異があるため

 結果的に矛盾が起きやすく暗示が解ける可能性が高いという事です。

 それも夫婦別居という手段を使えば解決するはずでしたが、そこで次の問題が発生します。

 

 それは『貴女』が体質的に暗示にかかりにくいという事がありました。

 簡単な……今見えているものを別なものに見せるですとか

 過去の記憶の一部を改竄するなどの事は比較的に容易ですが

 

 全く別人格を意識内に作り上げると言った、高度な暗示にはかかりにくいという事が解りました。

 

 以上の事から私どもは別の方法による実現方法を提案させていただきました。

 契約1、お子さん役となる方に対して貴女の子供であるという暗示をかける

 

 契約2、貴女にその子供が自らの子供であるという暗示をかける

 

 契約1に関しては既に実施しております。

 これからあなたの結ばれる契約は契約2になります。」

「はい」

その時、客間に入ってくる者があった。

それは彼女の旦那でありこの家の主だった者だ。

「それにしても、最適なお子さん役を選ばれましたね」

「そうでしょうか?」

旦那はソファに横たわると、彼女に膝に頭を乗せた。

「ええ、何せお子さんの事を知っている方がこの役をやられるのは最適です」

「この人は、あの子のことなど何も知りませんでした!!」

言葉は荒々しかったが、彼女は膝の上の頭さすってあげている。

「失礼しました。

 それでは契約の最終的概要は以上の内容でよろしいでしょうか?

 よろしければ後日契約書の方を送付しますので、ご承認のほどよろしくお願いします。

 その後弊社からスタッフを派遣させていただきます。」

「はい……コウちゃんもいいよね」

膝枕をしてもらっている旦那は、きょとんとした表情をしたが

自らが母親だと思っている者の顔を見て安心したのか元気よく答えた。

「うん!!」

怖い話投稿:ホラーテラー 園長さん  

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