中編4
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運送夜話

俺はトラックのドライバーだ。

深夜に加工食品を積み、チェーンスーパー中心に配荷している。

ルートは関越道を使っており、キツイし給料安いけど、現物を扱う仕事は性に合

っていて、結構やりがいがある。

この間、山中の高速を深夜走行中に眠気をもよおしてしまった。

こういう時は仮眠せざるを得ない。時間には余裕を持たせてもらっているので、

あるSAに停めて、15分ほど寝ようとした処、すぐ近くをじいさんが一人、ヨタ

ヨタ歩いてたんだ。

最近は一般道から直接入れるSAが増えて、事故に遭う徘回老人が問題になって

る。

職業柄気になったもんだから、トラックから降りて建屋まで連れていこうと思っ

たんだけど、地面に降りたらじいさんがいた処に、髪の長い女らしい人影が見え

たんだ。

じいさんと女の人を見間違えるなんて、もう寝惚けてんのかと、またトラックに

上がって仮眠した。

15分寝て、またトラック走らせた。

そして長い下り坂に差し掛かったとき、妙だなと思った。

要所でフットブレーキを踏もうとしても、右足が動かない。

ハンドルを掴む腕も感覚が鈍い。

「なんだおい、寝てんのか、俺!?」

もうパニックだった。

事故ることを覚悟しかけていた。

下り坂でスピードは上がり、もう120キロ近い。

「いや、これ、死ぬだろ…!まずいまずい!」

その時左の窓の辺りから、コンコンとノックのような音が聞こえた。

左に視線を移すと、緊急避難用の上り坂があった。

俺は懇親の力でハンドルを切り、ガゴゴゴッと避難路へ乗り上げてトラックは停

止した。

冷や汗が吹き出し、心臓の鼓動がやたら大きく聞こえた。

少し落ち着いた俺は、トラックから降りて損傷が無いか点検しようとした。

ふと前を見ると、暗い山の中に人影が見えた。

SAで見た長髪の女と、姿形が似てる気がする。

なぜか俺はフラフラとその人影に向かって歩き、山に踏み入ってしまった。

人影に近付くと、どんどん向こうが遠ざかっていく。

俺はボンヤリと歩を進める。

高速を少し離れ、真っ暗になった辺りで、突然背中に

ドスン

と何かが乗った。

それで意識が醒め、俺は肩越しに背中を見ようとした。

背中には、知らないじいさんがおぶさっていた。

じいさんは俺の肩口で口をカッと開けて怒りの表情をしていた。

完全に仰天した俺は、悲鳴をあげながらじいさんを振り落とそうとしたが、なぜ

かまるで離れてくれない。

半狂乱で悲鳴をあげながら、俺は山中で狂走した。

いっそ掴んで引き剥がしたい。

だが、自分の手でじいさんに触れるのが怖い。

その時、何かが俺の手を引いた。

じいさんがすうっと離れていく感覚がして、その後また前後不覚な状態になり、

俺は気が付くとトラックの前に戻って来ていた。

そこでようやく時計を見た。

配送の時間が押している。

自分の体験が府に落ちないまま、俺は混乱しながらもトラックを走らせた。

その日の昼、俺は先輩のベテラントラッカーにこの事を打ち明け、話を聞いても

らった。

「あそこは高速からすぐ近くに集落があるんだが、何年か前に火事があってな。

一家のうち、じいさんと、姉妹が焼死したんだ。

それ以来心霊スポットになってるんだよ。

髪が長いのは姉らしいぜ」

では、もしかしたら、最後に手を引いてくれたのが妹だったのか…。

火の元は放火だったらしい。

そりゃじいさんも怒るよな。

俺は翌日の夜、おはぎと日本酒を助手席に置いて、トラックを走らせた。

ちとモノがセコイが、お供えして怒りを少しでも和らげることが出来たらいい。

昨夜のSAを過ぎ、緊急避難路に差し掛かった。

前方を白いセダンが一台走っていた。

その助手席側の窓に、何かがまとわりついている。

灰色の煙のような、不定形の何か。

まさか、まさか、あれはこの間と同じ・・・

セダンは左寄りに走行していき、あの緊急避難路の上り坂を駆け上がっていった。

あっけにとられていた俺は、避難路を通り過ぎてしまい、停車帯にトラックを止めて

避難路へ走って引き返した。

上り坂の一番上で止まったセダンは無人で、山中を見るとドライバーらしき男が

ふらふらと暗闇に向かって歩いていた。

俺は後を追い、男を捕まえると、セダンの助手席に彼を押し込み、キーがつきっぱなしに

なっていた車をバックさせて本道に戻り、トラックを止めた停車帯へセダンも止めた。

全力で走ったのと、気が気じゃなかったのとで、ぜえはあと血の匂いのする呼吸をしながら、

男の様子が気になって助手席を見た。

!!!!!

助手席の窓に、外側から、あのじいさんが覗き込んでいた!

というよりも、怒りの表情でしがみついているように見えた。

あの時肩を掴まれた感覚が蘇る!

じいさんが

ガン!

ガン!

と片手で窓を叩き、

もう片方の手は煙のようになって、

車内に侵入してきたように思えた。

呼吸をしたらじいさんを体内に吸い込んでしまうんじゃないのかと、

俺の体は恐怖に巻かれて呼吸を止め、引きつったような悲鳴が

口から漏れたのがわかった。

恐怖と酸欠で、俺はそのまま失神した。

気がつくと俺は、自分のトラックの前でうずくまっていた。

セダンはドライバーごと消えていた。

運転席にいた、得体の知れない男=俺をおろして走り去ったのか。

俺の体には異常はないようだ。

気づいていないだけかもしれないが・・・。

あれからどうなったのか・・・

時間は余り過ぎていなかったようで、まだ空は暗い。

トラックへ戻ると、おはぎが助手席に残っていたが、もう供える気などなかった。

その日の配送が終わった後、俺は近くのでかいお寺に連絡し、あの道路端の幽霊の供養を

お願いした。

ちゃんと住職が祓ってくれたのかどうかはわからないが。

あれから、おかしなことは起こっていない。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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