中編4
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M下君の手紙

M下君から、7年ぶりに連絡があった。

あいにく僕は結婚して実家を出てたんだけど、母親に携帯番号を伝えていてくれた。

少しドキドキしながら、電話をすると、電話に出たM下君の声は昔と全く変わりなく、僕はとても嬉しかった。

7年ぶりでも、2、3分話しただけでぎこちなさが無くなり、あの頃と同じ感覚で話ができるようになる。

それがまた嬉しい。

2人とも、電話で話すのはあまり好きではないんだけど、さすがに長電話になった。

M下君が、お父さんと同じ道に進むと決めて退職し、故郷に帰ってからの話や、W県のお寺での修行の話、僕と嫁さんの馴れ初め、子供の話。

お互いの7年を報告しあった。

そして近況報告。

骨折してしまい入院中で、暇で暇で昔の事を思い出して僕に電話してくれたらしい。

僕はバカだから、何一つ疑わなかった。

「何か病室でもできそうなひまつぶしないですかね?テレビも見飽きちゃって…」

そんなM下君の問いかけに僕は、PSPの428というゲームと、このサイトを教えた。

「相変わらず好きですねぇ」と笑っていた。

退院したら遊びに行くので、快気祝いで一緒に飲みましょうと約束をして電話を切った。

その後、このサイトを見た時に、荒れ放題でM下君に教えたのを少し後悔した僕は、思いきって自分で投稿してみることにした。

一緒にお酒を飲みながら、話したかった昔話を投稿した。

自分の事だと気づいて読んでくれたら、多少のひまつぶしにはなるだろうか?

二十歳から書き始めた十年日記を読み返しながら、投稿した。

ひょっとしたら、M下君が叩かれたりしたらどうしようと心配したが、暖かい反応のが多くて、僕はとても嬉しかった。

メールでM下君に送るよりも、M下君が気を遣って返信しなくてもいいし、なによりM下君のことをカッコいいとか、おもしろいとか書き込んでくれる方もいて、投稿して良かったと本当に思った。

病室でニヤニヤしてるM下君を想像して、僕もニヤニヤした。

投稿を始めてから3週間ほどすぎた日、携帯に知らない電話番号からの着信があった。

いつもは出ないのだが、なぜか出る気になった。

「あのー、こちらY内さんのお電話でよろしいでしょうか?」

年配の女性の声だ。

「はい…、そうですけど?」

「私、M下の母でございます。」

心臓の鼓動が急に激しくなった。

「息子が先日病気で亡くなりまして…」

頭の中が真っ白になった。何を言ってるのか理解できなかった。

電話の向こうでは、まだ何か話し続けているが、全く頭に入ってこない。

「えっ?」と聞き返す。

「生前は息子が大変お世話になったようで、ありがとうございました…」

「あのっ、骨折じゃなかったんですか!?」

「いえ、あの、ガンで…」

何も疑わなかった自分の馬鹿さ加減に腹が立った。

「息子がY内さんに手紙を残しておりまして、お送りしたいので、住所を教えてもらえませんか?」

「あっ、あの、ご迷惑じゃなければ、お線香もあげさせて頂きたいですし、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

最後までお母さんは、手紙を見つけたのが遅くなって、連絡が葬儀の後になったことを謝っていた。

電話を切った後、僕はしばらくその場に立ち尽くしていた。

会社を休んで、九州のM下君の実家まで行くことにした。

九州へたつ前日、K藤から電話があった。

結婚が決まって弾む声のK藤には言いづらかったが、M下君のことを伝えた。

のろけ話をするために電話してきたK藤は、「うそっ……!?」と絶句したきり、ずっと泣きじゃくっていた。

M下君の実家は、M下君曰く霊のたまり場なのだが、昔、2人で毎日のように飲んでいたM下君の部屋みたいに、とても懐かしく感じた。

お父さんもお母さんも、大変優しい方で、ご自身のが辛いはずなのに、僕のことばかり気を遣ってくれた。

遺影は去年撮った写真だと言っていたが、髪を短くした以外はあの頃と同じだった。

写真が苦手なM下君は照れくさそうに笑っていた。

2人の知らないM下君の話をし、僕の知らないM下君の話をたくさん聞いた。

M下君は入院中、医者が不思議がるほど、痛がらなかったこと、

安らかに眠るように息をひきとったことを聞き、変な言い方だけれど、少しホッとした。

故郷に帰ったM下君はお父さんに、

「結構いいかげんな性格だけど、何でも話せる親友ができた」と言ってくれていた。

そう聞いて、涙が止まらなかった。

そして、お母さんにM下君からの、最初で最後の手紙をもらった。

茶封筒には、僕の名前と携帯番号が書かれていた。

中には白い便箋が一枚。

僕の投稿を読んでくれていたらしく、

あの時はこうだったとか、Y内さんの怒りが顔に出てたから合コンは失敗したとか、よく覚えてますねーと感心したり、僕の昔話に手紙で付き合ってくれていた。

そして、最後に

嘘ついてすいません。

退院して飲みに行く約束守れなくてすいません。

と書いてあった。

一言も泣き言なんて書いてなくて、M下君らしかった。

M下君の笑顔まで同封されているような手紙に、僕はまた泣いた。

帰りに、ご両親は玄関先まで見送ってくれた。

深々と頭を下げる2人の後ろに、照れくさそうに笑うM下君がみえた…。

僕はまた泣きながら、ちぎれるほど手を振ってM下君と最後のお別れをした。

怖い話投稿:ホラーテラー Y内さん  

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