中編4
  • 表示切替
  • 使い方

面接の怪 終

面接の怪 伍の続き

それからも私に対する嫌がらせが続きました。

先にも話したように、着替えがなくなるのはほぼ毎日で、車に悪戯される他、タイムカードが割られていたり、靴の中に生卵が入っている事もありました。

そしてその様な行為がある日には、必ずアルバイトに斎藤君か南部さんが入っているのです。

私は我慢の限界を感じていました。

しかし、森田さんを不安にさせまいと彼女には黙っていました。

ある休日、森田さんと昼間から会ってランチに出掛けました。

イタリアン系のチェーン店で、美味しく食事をし、日頃の嫌がらせを忘れて、楽しんでいました。

食事を終えて、店を出ると停めてあった車のフロントガラスに何か赤く書かれています。

遠目からでも赤いスプレー缶だとわかりました。

車に近づくと、そこには嘘つき野郎と書き殴った様に吹き付けてあったのです。

森田さんは不安そうに私を見つめます。

私は森田さんに説明する前に、ここでは人目につくと思い、取り合えず、森田さんを乗せてガソリンスタンドに向かいました。

洗車機にかけても、落書きはなかなか落ちず、結局知り合いの塗装屋に頼んで、業務用のシンナーの様な液体で消してもらいました。

消えて一安心し、森田さんに一連の嫌がらせを打ち明けました。

彼女は泣いて謝ってくれましたが、一切彼女には非がないのです。

私は彼女を家まで送り届け、その足で警察に被害届を提出しました。

そこで気付いたのですが、イタリアンレストランに行く前に落書きがなかったという事は、食事をしている間に書かれた事になります。

と、いう事は尾行されていたのです。

さっきは怒りのあまり気付きませんでした。

そして気付いてしまった今、怒りから恐怖に変わりました。

もし、ガソリンスタンドや塗装屋までも尾行されていたのなら、その後、彼女を家に送り届けたので、彼女の自宅マンションが判明してしまいます。

私は自分の浅はかな行動に自分で落胆しました。

そしてすぐに彼女に電話しました。

不幸中の幸いか、今の所、変わった様子はないようでした。

しかしまだ安心出来ず、森田さんさえよければ近い内に引っ越しするようにお願いしました。

もちろん引っ越し費用は私が出すつもりで。

私の急なお願いに彼女も困惑しており、すぐには返事出来ないとの事。

当たり前といえば当たり前ですが、そのくらいあの親子を恐怖に感じていたのです。

二日後、突然森田さんから呼び出され、近くの喫茶店で会う事になりました。

喫茶店に着くと、彼女は一番奥の席で待っていました。

そして私が席に着くなり、彼女は茶封筒を差し出し、別れたいと一言言いました。

私は状況が飲み込めず、渡された茶封筒の中身を確認しました。

中には写真が一枚。

私が知らない女性と遊園地か何処かで楽しそうに写っていました。

私はその女性に見覚えもなければ、勿論、その女性と遊園地に行った記憶もありません。

そしてその写真にはご丁寧に日付けまであり、森田さんとお付き合いが始まってからの物でした。

はたから見れば、私が浮気をして、女性とデートしているように見えたでしょう。

彼女もまた、そう捉えた様です。

私は説明をしましたが、若い彼女にとって一度思い込んでしまったら、その説明すら言い訳にしか思えなかったのでしょう。

どれだけ私が説明しても信頼と信用を回復するには至りませんでした。

彼女自身もあの親子のせいで、心身共に疲れていたのだと思います。

そして捏造だとはいえ、信頼していた彼氏の浮気。

もう彼女のキャパを越えていたのでしょう。

そうして私達は別れました。

彼女はその週でアルバイトも辞めました。

私もその後に色々あって仕事を辞め、県外に出て、今は全く別の分野で働いています。

そうそう、

今年の正月、私に届いた僅かばかりの年賀状の中に、何処で私の住所を調べたのか斎藤君からの年賀状がありました。

裏面には写真が印刷されており、結婚しましたと手書きで添えられていました。

結婚式の写真で、斎藤君の隣には純白のウエディングドレスを着た森田さんが写っていました。

あれからどんな経緯で二人が一緒になったのか知りませんし、知りたくもないですが、嫌悪していた男性に嫁ぎ、あの南部さんの義娘になった彼女に一番の恐怖を感じました。

きっと差出人の斎藤君は今頃、ほくそ笑んでいるのでしょう。

愛しい人を手にいれて、母親とともに。

怖い話投稿:ホラーテラー 雨四光さん  

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ