その昔、あるところに若い夫婦が住んでいました。
その夫婦の女房は、それはそれは美しい女で、亭主ご自慢の女房でした。
ある年の夏、その地方に疫病が流行り多くの人が亡くなり、そして女房も疫病にかかってしまいました。
亭主は女房を必死で看病しましたが、看病虚しく女房は死んでしまいました。
女房を深く愛していた亭主は、それはひどく歎き悲しんで、まるで魂の抜け殻のようになってしまいました。
亭主は、来る日も来る日も泣いて暮らして、女房の事が忘れられません。
もう一度女房に会いたい。
女房の美しい顔が見たい。
亭主の脳裏に女房の美しい顔、そして自分を見つめる優しい眼差しが浮かんで、どうしても諦めることができません。
そして亭主は行動を起こしました。
月夜の晩に亭主は女房の埋葬されている墓場に行って、そして女房の墓を掘りだしました。
しばらく掘っていると酒樽型の棺桶の蓋が見えてきました。亭主は、また美しい女房に会えると心の中で喜んで、棺桶の蓋を開けました。
「さぁ!お前、もう一度美しい顔を見せておくれ」
亭主は屈んで棺桶の中を覗きましたが中は暗くてよく見えません。
亭主は提灯の明かりを女房の亡きがらに近付けました。
「ギャー 」
亭主は、思わず悲鳴をあげて後ずさりました。
女房の顔は夥しい数の蛆にたかられていて生前の面影がありませんでした。
「もう綺麗じゃないの」
亭主の耳にそう聞こえたような気がしました。
ほどなくして亭主は出家しました。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話