長編9
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赤線哀話

この話は、ある女性の身に起こった出来事である。

実はこの話を聞くまでは〈赤線〉という言葉すら知らなかった。 以後この女性をM子とし、出来るだけ忠実に伝えていきたいのだが…

M子は中部地方のある都市で働き、30歳を目前に色々悩み、結婚もしたい でも仕事は続けたいなどよくいるタイプの女性であった。 今から3年ほど前のことである。

夏が過ぎ、セミの鳴き声も聞こえなくなった静かな秋の季節。

友人とM子の女3人で一泊旅行の計画を立てた。 旅行と言っても県内で、ドライブがてらと、食べて飲んで一泊するだけの気軽な旅行。

車で約2時間ほど走り、海も近いし遊覧船に乗ったりしながら昼間は過ごした。

夕方に予約してある旅館へ向かった。

そして自分達の泊まる旅館に到着したのだが…

M子(え? ここなの? )

古ーい建物で、通された部屋、襖、飾ってある絵、備え付けの鏡台 恐らくこの旅館が建てられた当時からあるような…それに何やら普通の旅館とは思えない

一言でいえば『陰気臭い』のだ…

この旅館を予約したのは友人S美だ。気分を害さないように、この旅館を選んだ理由を聞いて見た。

このあたりは観光地だし、周囲にもホテルや旅館がたくさんあるようなのだが…

M子 「 この旅館どうやって見つけたの?」 笑みを浮かべつつ。

S美「 ネットだよ。ここ味があるでしょ? それにこの旅館は元々は遊廓だったそうだし、珍しいなと思って。」

やや得意気な様子のS美だった。

M子 「ヘェ なかなかだね…」

そんな中途半端な返事を返した。

どうりで違和感があるはずだね… それにしてもあまりに陰気だ。 遊廓か…

でもせっかくの旅行だ。 気分を変えよう。 彼女らは夜の町に繰り出した。3人とも酒が好きで、いわゆるガールズトークで盛り上がった。

(ガールというほど若くないじゃんって思ったけど。)

ほろ酔いで旅館に戻ると、布団が敷いてあった。 横になると昼間の疲れと酒のせいで、スーッと眠りについた…

しばらくすると、目が覚めてしまった… まだ夜中である。喉の渇きに気付き、起き上がろうとした瞬間…

体が動かない!

M子は横向きに寝ていたが、その体勢で金縛りにあったのだ。

背中を入口の方に向け、顔はS美を見ている。

(お願い起きて!怖い! どうしよう…)

S美はスヤスヤと寝息を立て起きる気配なし。

ウゥーっ 声さえ出れば。

もがいている内、背後の襖がスーッと開いた…

(!!)

何かいる! 気配を感じ取ったのだが、正体が分からない。

M子は微動だにせず、ひたすら゛それ″が消えるのを待った。

だがそれはズルッズルッと音を立て中に入ってきた。

彼女らの足下を通りそれから頭の方へ向かい円を描くように歩いている。

M子は横向きのままとうとうそいつの正体が見えてきた。一番奥で寝ているC子の足下から頭の方へ引きずるように歩く女を…

女はC子の頭まで来ると方向を変え、こちらに歩いてきた。

M子は女の正面を見た。

まずその時点でこの世のものでない事を確信する。

その女の姿… 髪は長く、どうしたことだろう、髪はまるで針金のようで黒くない。 白い着物を着ているようだ。 外の街灯のせいでだいたいの姿が分かった。 顔は髪に隠れて見えない。

ズルッ ズルッ

女はM子の所まで来た。 M子は気付いてないフリをしたがそんなのは無駄だった。

既に恐怖は頂点に達していたが、今度はM子の周りをグルグルと何度も何度も回った。 足は浮き気味でスーッとした動きでかなり早いスピードでM子の周りを回った。

そしてその動きが止まった…

横向きのM子は何故だかいつのまにかあお向けになっている。

女はM子の上に倒れてきた。 顔が近づいて来る。

顔が見えた! 目は黄色く濁り口は所々裂け、アザのようなものが見えた。

怨念に満ちたその顔…

M子は気絶した…

気が付くと朝になっていた。ぐっすりと眠っていた友人達が少し恨めしかった。

夕べのあの恐ろしい出来事は? 夢だとは決して思えない。

その日は体調が思わしくなく、友人達には申し訳なかったが、そのまま帰るように頼んだ。 M子はまだ女の霊の本当の恐ろしさを味わう事になる。

そしてあの土地にまつわる悲しい歴史

あの日以来、どうも体調が思わしくない。酷い肩こりと頭痛が取れず、夜も寝付きが悪くなった。

その時点で原因を付き止めていれば、これから降りかかる不幸な出来事は起きなかったかもしれないのだが…

M子にとってあの夜の事は早く忘れてしまいたい一心だったから。

それからドンドンM子に異変が起きた…

職場では何故か人が離れて行った… 話かけてもみんなそっけない返事。 ある日突然に…

それから会社では朝の挨拶と帰りの挨拶意外、ほとんど会話がなくなった。

慣れ親しんだ職場がいっぺんに冷たい職場に変わってしまった。

それから仕事の方も有り得ないミスをするようになった。

僕の知る限りM子はとても優秀だった。

自分のミスを挽回するように必死で頑張った。 M子も仕事さえ頑張っていればまた前のように楽しい職場に戻ってくれるはず…

体調が悪いにも関わらず、頑張るM子の姿はただの空回りとしか見てもらえなかった。

焦りと不安は見た目にも表れはじめた。 髪が抜け、ハツラツとした顔は艶を失い、体は痩せ細り、明かるかったM子は完全に笑顔が消えた…

それでも何とか仕事をこなす彼女に対し、会社が突きつけたのはリストラ宣告であった。それも突然。 理由は会社の業績悪化であるが、周りを見るとM子に対してだけだった。

さらにM子を地獄に落としてしまう出来事が…

当時付き合っていた彼氏が、他の女に心変わりしてアッサリとふられてしまった。 お互い結婚を前提とした仲だったのに。

彼女は仕事と彼氏をいっぺんに失い、絶望と孤独の中、自殺を考え始めた。

そしてその決意が固まり、その前に身を清めようと風呂に入る事にした。

湯船に浸かり、M子は、自分の手…足…体… 見つめていると、涙があふれてきた…

( ごめんね… もう…頑張れないんだ )M子は声を上げて泣いた…

風呂から上がると、電話が鳴っていた。誰とも話したくなかったが、 見るとS美からだった。

M子「もしもし…」

S美「 M子ぉ 元気ィ? 今からそっちいくから待ってて」

OKの返事も待たずに電話は切れた。

S美に最期に会えるなんて良かった。そう思って M子を待った…

ピンポーン S美がやってきた。 S美はM子の姿を見て、一瞬絶句した。 だがすぐさま「上がるよっ」って中に入り込んで来た。

実はあの旅行以来軽くメールのやり取りだけで、会ったのは約1ヶ月ぶり。 お互い忙しい身の上で、M子の気遣いで、これまでの辛い出来事も打ち明けていなかったのだ。

S美「ごめん! やっぱり早く来るべきだった。 あれから家に帰って、家族に旅行の土産話をしていたんだ。 泊まった旅館の事も。もともと遊廓だったって。すると、父がボソッと『何にもなかったか?』 っていう訳よ。 」

何で? って聞くと…

S美父「 あの辺りはかつて《赤線》って言って、まあ…女を買う所でな。 近くに競艇場あっただろ?父さん若い頃よく行っていたんだが… 勤めていた会社の上司がな、 遊びに行ってもそこに泊まるなっていうんだ。

何でも 女が化けて出て来るんだとよ。髪の毛なんてバサバサで銀色で針金のようだとさ」

M子はあの恐怖が蘇ってきた…

S美「 そういえばあの時、M子具合悪くしていたなぁって。 それに泊まっちゃいけないのは男の人だけらしいから、きっと大丈夫なんだろうと… でも何か気になるから、M子の会社を覗いてみたら、退職したっていうじゃない。

何があったか話して!」

M子はこれまでのことを全て話した。心に深い傷をおい、言葉に出すのも辛い事だったが…

そしてあの旅館での恐ろしい体験も

話を聞いたS美はしばし考えていた。

( 女の霊の仕業か…M子の顔も普通じゃない。 何より目が怖い! きっとM子にとり憑いているはず…まだM子の人格そのものは壊れていないようだ 早く助けなきゃ でないと)

S美は携帯であちこち電話かけまくった。

しばらくしてS美は「行こう。」といってM子を連れ出した。

M子が行き先を尋ねると、

S美「 〇〇寺」

かつて遊女の投げ込み寺であった〇〇寺にM子を連れていった。

(実際はこの寺を見つけるのに時間がかかった)

S美が来るまでは死ぬつもりでいたM子だが、あまりS美の真剣さに押されて、素直に従う事にした…

車で小一時間ほど走り地図を頼りに何とか到着。

その寺は小さく、非常に簡素ではあったが、花が咲き乱れ、手入れの行き届いた寺だった。

出迎えた初老の住職はM子を一目見るなり挨拶もそこそこに本堂に通し、M子を座らせた。

一通りのことが終わり、気が付くと別室に寝かされていた。

S美はそばにいた。

そこへ住職がお茶を持ってやってきた。

「もう大丈夫。 つらかったね…。」

M子は体は少しだるさが残っていたが、気分はぐっと軽くなった。

住職が立ち去ろうとするのをS美が引き止めた。 理由を聞かなきゃ納得出来なかったのだ。

住職は2人の前に座り語った事とは…

彼女達が旅行したある界隈はかつて遊郭のあった場所。

『苦界に身を落とす』 この言葉通りまさに女の地獄…

死ねば死んだで、裏から人目を忍び、寺に放り込む。 ひどい時にはその辺の川に捨てられることもあった。

時代を経てこの遊郭は消えていった。

それから戦後辺りからいわゆる《赤線》と呼ばれるものが流行った。 全国には所々にあったようだが… なんと政府公認で売春が行われていたのだ。 裏でやる事を〈青線〉というようだ。

(雰囲気とかは自分では分からないので、少し古い人に聞いてくれ)

程なくして売春はダメって法律が変わり《赤線》は廃止となった。

住職「この人に憑かっていたのは、赤線時代に怨みを飲んで死んだ女です。

惚れた男が鬼のような男で、さんざん貢がされ、果ては体を売ってまで金を作った… 逃げようものならそりゃあひどい暴力を振るう。

しまいに衰弱して死んでしまったのです。」

住職は続ける

「 確かに女の怨みの渦巻く土地と言っても、そう簡単には生きてる人間には憑けないものです。

M子さん、あなたあの時、悩みがありましたね? 気分転換にとお友達と旅行する事にした… でも頭の中はその悩み心配が離れなかったのでは?

そこであなたに隙が出来た…

でも会社を辞めなきゃいけなかったのも、彼があなたの元を去ったのはその女の霊のせいばかりではありません。

確かにあなたに対して嫉妬心をあの女の霊は持っていたので、同じような苦しみを味わわせてやりたかったようだが…

彼が本当に結婚の相手なら別れたくても別れられません。

あなたは薄々気づいていたはず… 女の影を。

仕事にしても自分より若い優秀な人達に対して、人知れず嫉妬していた… 」

住職「 マイナスの波長はマイナスを呼ぶという事です。

時に天は大きな試練を与えますが、その時の心の持ちようが大切。 でもなかなか難しい。 だから一生かけて練習するのです。」

ちなみに男性諸君。あまり女を泣かせると、次生まれ変わった時には女となって男に苦労させられるらしいよ。

そして今 男に苦労させられている女性は、前世は男で、さんざん女を泣かせたのかもしれないよ。

住職がそんな事も言っていたそうだ。 全ての出来事には原因があって結果がある。

だから誰を怨むことは出来ないんだと。

話がそれたが、M子は本来の元気を取り戻し、 主婦として頑張っている。

生きてりゃ何とかなる

M子を見てそう思ったよ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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