中編4
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夜歩く

シャン…シャン…シャン…

また、あの音がする。

僕はベッドから起き上がる。

午前3時。いつも通りだ。

コートを羽織り、部屋の外に出る。

「行列」は、僕のアパートの横を、

静かに通り過ぎていく途中だ。

その最後尾に、僕はゆっくりと合流する。

これもいつも通りだ。

「行列」には、様々な人が並んでいる。

半白髪のお年寄り、眼鏡をかけたサラリーマン、

僕と同じ年頃の女の子もいる。

彼らはひたすら、前の人々についていく。

同じ歩調、同じ歩幅、同じ速さで、

黙々と行進していく。

勿論、最後尾の僕も例外ではない。

「行列」の一番前には、「案内人」がいる。

この「案内人」は、どうも僕らとは異なった存在であるようだ。

早い話が、「人間じゃない」ってこと。

「彼女」はまず、恐ろしく背が高い。

2m以上はあるだろう。

当然手足も長いが、その先端は、

異様なほど先細りしている。

糸の様に細い四肢には、指も無い。

だから「大きい」というよりも、

「細長い」という表現がぴったり来る。

白い袈裟を着ているが、肌も負けないほど白い。

空気も凍りつくような、こんな冬の夜には、

白を通り過ぎて透き通っているようにも見えてくる。

黒くて長い髪に映える。

体は仄かに青白く光り、それが「行列」全体を薄く包んでいる。

顔も白くて長い。

でもその顔には、目も鼻も口もない。

目と口のあるべき部分には、楕円型の僅かな凹みがある。

凹みの中には、穴が多数開いている。

そして右手には、杖を持っている。

杖の先は円形で、錫仗に似ているが、

鈴がたくさん付いている。

歩く度に、シャン、シャンと音がする。

僕らはそんな「案内人」に連れられて、1週間に1回、

この街を1周するのだ。

深夜の街はどこまでも静かで、僕らの靴音と、

「案内人」の鈴の音だけが周囲に谺する。

通行人には出逢わない。

家の前を通ると、家の影から誰かがこっそり出てきて、

「行列」に加わるくらい。

あとは時々、野良犬や野良猫が、

こちらを不思議そうに見つめるだけだ。

「行列」は、いつも街のはずれの、

古びた無人駅までやってくる。

時計を見る。午前6時。

そろそろだ。

駅舎に入ると、朝日が昇るのが見えた。

白い光が、青白い「行列」全体を照らし出していく。

その光と共に、「案内人」は空中に霧散する。

これで今週の「行列」は終わりだ。

「行列」はたちまち崩れ、

それぞれの生活に帰って行く。

この時、僕らは皆、不思議な感覚の中にいる。

それは例えるなら、今までそれと思っていたものが、

実はまったく違うものであると急に気づいた時のような。

さっきまで自分が通ってきた道なのに、

一皮剥けば全然違う場所のような。

しかし、それは不思議でもなんでもないのだ。

実際に僕らは、違う「街」に来ているのだから。

「案内人」に連れられ、街の入り口である廃駅に来て、

再び「街」に入った時点で、それは僕らの住んでいた「街」とは、

少し異なった「世界」なのだ。

だから皆、行列を離れると、不安と期待の入り混じった、

なんともいえない表情を浮かべながら、家路を急ぐ。

「街」と、そこでの自分のありようの変化を楽しむものもあれば、

失った家族が生きている「街」を望むものもいる。

望みが叶わなかったり、意に沿わない「街」であった場合は、

1週間後にまた「行列」に参加すればいいのだ。

しかし勿論、違う「街」に行くためには、

リスクが伴う。

1つは、この「行列」には、参加した以上、

絶対についていかなくてはいけない、ということだ。

「行列」の途中で列から外れたり、歩けなくなったりしても、

「案内人」は待ってくれない。

「行列」を包む青白い光から、全身が抜けたとたん、

その人は闇に喰われる。

周囲を覆う闇は、「行列」に並んでいる人々を、

貪欲に狙っている。

最後尾の人には、後ろから奇声が聞こえることもある。

闇に喰われると、どうなるかは分からない。

しかし恐らく、どちらの「街」にも行けないのだろう。

もう1つは、「行列」の順番に気をつけなくてはいけない、

ということだ。

スリルや望みを求めて、何度も「行列」に参加しているうちに、

気がつけば随分と、前の位置に並んでいる。

それでも参加し続けると、

いつの間にやら最前列を歩く破目になる。

つまり、「案内人」になってしまうのだ。

だから僕が今参加しているこの「行列」の「案内人」も、

僕が知る限り2人目なのだ。

僕が始めて参加した時は、目の横に大きな黒い点(黒子だろう)を持つ「案内人」だった。

その後ろには、黒くて長い髪の女の子が歩いていた。

だから今の「案内人」は「彼女」なのだ。

きっと「彼女」は、望みの「街」に行けなかったんだろう。

もし今日の深夜、外から静かな鈴の音が聞こえたら、

きっとそれは僕らの「行列」だろう。

大丈夫。リスクにさえ気をつければ、

この「行列」は、ちっとも怖いものなんかじゃない。

むしろ君を、今の「街」から救い出してくれるかもしれないんだから。

ほら、遠慮は要らない。

最後尾は、常に次の人を待っているよ。

望みを叶えたい人を。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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