中編3
  • 表示切替
  • 使い方

樹海

友達3人とキャンプするため富士五湖の西湖に来た。

特にすることも無く、度胸試しのために樹海を探索をしようという事になった。

スーパーで梱包用ビニール紐を大量に買い込み、樹海を通る山道の入り口まで車で移動。

天気にも恵まれ、山道を歩いている時はちょっとした森林浴気分だった。

「この辺りから入ろう」

という友達の提案で、山道から樹海に踏み入れた。

鬱蒼と繁った木々で昼でも薄暗い。

噂や伝聞のせいか、森林浴気分は吹き飛び心に不安が芽生え始めた。

一人ずつビニール紐の端を、道脇の木にしっかり結び探索を開始。

10メートルも入ると今来た山道は分からなくなる。

4人がバラバラの方向に進むと、すぐに友人達が見えなくなる。

「何か面白いものあったかー?」

不安を和らげる為に大声を出してみる。

程なくして声が3つ聞こえてきた。

三人とも「何もない」的な返事だった。

苔で滑る足元に苦労しながら奥へ進むと

一瞬人影が見えた気がした。

怖いながらも見えた辺りに目を凝らす。

木々の間に人が立っていた。

スーツを着たサラリーマン風の若い男の人。

こちらを見ている。

こんな所にサラリーマンがいるはず無いのは瞬時に理解できた。

しかし僕は逃げ出さなかった。

彼の表情が見えたからだ。

彼はとても悲しげな表情をしていた。

そしてその表情からは悪意を全く感じなかった。

まるで僕に何かを訴えかけているようだ。

彼に対して不思議と恐怖心は芽生え無かった。

叫びながら逃げ出してもおかしくない状況の中、僕はゆっくりと彼の方に近づいた。

彼はふっと見えなくなった。

慌てて僕は彼を探す。

気づくともっと先の方から彼がこちらを見ている。

僕が近づいた事で、彼が少しだけ微笑んだ気がした。

また少し近づくとふっと彼は見えなくなり、更に先の方に現れる。

その繰り返しだった。

ビニール紐を伸ばしながら、僕は彼の誘導についていった。

僕は線香を持って来なかった事を少し悔やんだ。

途中咲いていた綺麗な花を、この先に待つ「彼」のために少し摘んだ。

花を摘んだり、ビニール紐が無くなり新しいビニール紐を結びつける間も、彼はずっとこちらも見て待っていた。

用意していた5巻きのビニール紐が無くなりかけた頃

ふっと消えた彼が、消えたままになった。

心の準備をして彼が立っていた辺りに近づく。

太い木の枝からロープが垂れ下がっていた。

先は少し大きな丸い形。

見つけて欲しかったのだろう。

いたたまれない気分になりながら、せめて花を・・・と付近にいるであろう「彼」を探す。

朽ちた木と苔のせいか、中々見つけることができなかった。

風や動物のせいで少し離れてしまう事もあるかと、ロープの真下から探す範囲を少し広げた。

足下を探す目の端に、何かヒラヒラしたものと靴先が見えた。

顔を上げると少し先に彼が立っていた。

彼は満面の笑みで僕の後ろを指差す。

指し示す先には、さっきの垂れ下がったロープ。

耳元に笑いをこらえたような低い声が聞こえた。

「もう出られないから 使っていいよ」

振りかえると彼の姿は無く

彼がいた場所には、切れたビニール紐の端がヒラヒラしていた。

怖い話投稿:ホラーテラー からくりさん  

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ