中編3
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通勤

毎日同じ光景だ。

通勤電車を待つ僕は、まだ残る眠たさのせいで鞄片手に軽く伸びをした。

僕の前には四人のサラリーマン。

僕の後ろには若くて可愛いOL。

もちろん話をした事なんかない。

その後ろもすでに何人か並んでいる。

並んでいる人、並んでいる順番すら殆ど毎日変わらない。

一本快速が通過した後の、7時53分の各駅停車。

その電車に乗って、二駅先の駅で快速に乗り換える。

会社に8時50分に到着する。

僕はカバンから読みかけの小説を取り出した。

行き帰りの読書で、約二週間でいつも読み終わる。

今は半分くらいの所にしおりがある。

ん?

カバンから本を取り出した僕は、何だか違和感を感じた。

すぐに原因はわかった。

列が減ってる?

僕の前には三人のサラリーマンしかいなかった。

目を離した隙にどこかへ行ったのか?

毎日の繰り返しのせいで、最初からいないのを思い違いしていたのか?

まぁたいした事じゃない

と思った時

先頭の少し若いサラリーマンがフッと消えた。

えっ?

僕の前に並んでいる二人には何の反応もない。

周りを見る。

後ろのOLと目が合ったが、一瞬僕を訝しげに見た後、すぐに視線を外す。

見間違いか?

俺が疲れているのか?

んんっ

後ろのOLがわざとらしい咳払いをした。

前を見ると、僕と前のサラリーマンの間が少し開いている。

僕は殆ど無意識に一歩つめた。

と先頭の中年のサラリーマンが前に進み出る。

そのままホームからフッと落ちた。

今度はしっかりと見えた。

飛び込みだ!

僕は焦って周りを見る。

並んでいる人も駅員も何の反応もしていない。

僕だけが見えたのか?

だが僕の前に並ぶサラリーマンにもやっぱり反応は無い。

僕は混乱してきた。

幻覚でも見ているのか?

〜〜快速電車が通過いたします。白線の内側まで・・・

快速電車通過のアナウンスが聞こえる。

と僕の前のサラリーマンが進み出た。

そのままストンとホームから落ちて消える。

訳がわからない。

駅員は何してるんだ。

誰も見ていないのか?

それとも俺の頭がおかしいのか?

前に誰もいなくなったホームを一歩進み出て、恐る恐る下を覗き込んだ。

僕の前に並んでいた四人のサラリーマンが線路に沿って立っていた。

全員不自然にうつむいている。

並んでいた順番そのままだ。

異様な光景に僕の膝がガクガクと震え始めた。

んんっ

後ろのOLの咳払いが聞こえる。

なんだこれ。

こいつら何でこんな事してるんだ?

何でみんな平然としてるんだ?

誰かに助けを・・・。

周りを見た。

僕の左右の列に並ぶ人達が次々と線路に降りている。

「早く」

後ろのOLが言う。

変な汗が全身からドッと噴き出る。

早くって何を?

僕の番だっていうのか?

おかしいだろこんなの。

僕だけが正常なのか?

それとも僕だけがおかしいのか?

「早く」

またOLの声。

やっぱり僕がおかしいのか?

「前、何やってんだよ。」

列の後ろの方から不満があがる。

僕の列だけざわめき始める。

左右の列からは人が淡々と降りてゆく

僕の背中から聞こえる僕への罵倒。

僕がおかしい?

毎朝こうだったっけ?

何か思い違いしてた?

これでいい?

「ちょっとあなた・・・」

後ろのOLがまた文句言いかけた。

僕はOLに引きつった愛想笑いし、ペコリと軽く会釈して進んだ。

手の本を見る。

今日はキリの良いとこまで読めるといいな。

怖い話投稿:ホラーテラー からくりさん  

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