短編2
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地獄は壁一重

俺は昔から貧乏だった。それを理由に虐められたこともあった。いつか見返してやると心に決めて生きてきた。

ただひたむきに努力してきた結果、ついには社長の座を手に入れた。小さな会社ではあったが、上から見た景色は格別だった。

だが、雇う側になって悩みも出てきた。平社員の時は気にもならない些細なことだったが、社長になって初めて気が付くことだった。

会社の体制や俺に対しての、不平や不満の多いことが、俺にしてみれば重度のストレスを感じさせたことだ。

全体的にまとまりがない。このままでは駄目だ、何とかしていかなければ。

俺は懸命に皆を引っ張っていった。その甲斐もあり、俺の会社は活気のある楽しい職場へと変わった。

しかし、平穏な日常を送ることが出来るようになったのも、暫らくの間だけだった。頑張っている従業員が多い中、なんとも身勝手な奴が出てくるものだ。

実績も上がらないのに、給料アップを訴え、自分のミスを人に擦り付け、そして人の手柄を横取りしようと必死になる。俺が気付いていないとでも思っているのか?

あいつを辞めさせたい……。クビにしようにも決定的な理由がない……。どうすれば……?

答えは簡単な事だった。奴が営業に出る前に、車のブレーキの利きを少しだけ緩めておいた。あっさりと事故で死んでくれた。保険金も転がり込んできた。

自然と笑いが込み上げてくる。なんて面白いんだ。

味を占めた俺は、13年の内に気に入らない奴らを次々と殺した。ある時は飛び降り自殺、またある時は酒に酔い海で溺れたと見せかけた。警察が事情を聞きにやってくるが、捜査も単純で実に生ぬるい。

今回も1人の人間を殺した。休日の晩、アリバイ工作など周辺の整理をつけていると、あり得ない現実を目の当たりにした。昨日殺したはずのYが目の前に現れて、俺を睨んでいるのだ。

「い、生きていたのか?」

Yは返事をしない。頭から血を流している。それどころか生気そのものも感じられない。そう、Yは死んでいるのだ。

ゆっくりと近づいて、俺に襲い掛かってきた。

「よせ、俺が悪かった、頼む、許してくれ、来るな、来るなぁああ………」

こうして、俺の人生は呆気なく幕を閉じた。

年間死亡者数120万人の中に、他殺は1千人〜1500人程度しか含まれていない。

しかし、行方不明者に至っては、毎年1万人〜3万人と言われている。

自殺や事故,行方不明などと処理された隠された殺人事件は、1万件以上も含まれているのは、紛れもない事実であった。

怖い話投稿:ホラーテラー みうまさん  

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