中編5
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のこされたドア

これは私の職場の話。時期は去年の秋ごろだったと思う。

長い上に初めての駄文の為、あんましかもですが、読んでくれる人はどうぞ。

私は、とある製鉄所の警備や各職場の環境改善を主に請け負っている職場(吸収されて一応職場扱い)に勤めているのだが、仕事の中に工場の建設・解体現場の「夜間警備巡回」という仕事がある。その時期の製鉄所は設備更新やら、環境対策やらで、かなりの建設・解体ラッシュだった。

ある夜勤の日、私は一人で解体現場の見回りを行っていた。胸に付けた無線機で時々本部と連絡を取りながら、手元のライトで周りを照らしつつ決められた巡回コースを回る。

勤めて2年程だが、私はこの会社の解体現場のある共通点を発見していた。

その共通点は

建物をどれだけ解体したとしても作業員の現場の出入り口だったドアを最後に残す。

というものだ。

今見ている解体現場だって、もう残りは基礎部分をドリルで壊していくだけで、壁だって全て無くなっているのにドアだけが残っている。

この残っているドアなのだが、おそらく一般の職場や生活じゃまずお目に掛かれないような珍しいものだと思う。

このドアは現場の人間がラチェットドアと呼んでいるドアで、工場の作業区域から休憩室や外に続くドアは、必ずこのドアが配置されている。

特徴はドアの端に蝶つがいが無く、歯車を棒にした様な支柱に、ドアノブに連動したラチェットギアがドア内部で連結している。

ドアノブを右に回せばドアは押すことで動くようになり、左に回せば引くことで動くようになる。ドアノブを離せばギアが連結されて、好きな角度でドアを開けた状態で止めておける。

つまりこのドアは開けるも閉めるも、ドアノブをしっかり回した状態でないと閉まらないし、開かないという構造だ。

ただのドアじゃないし後で分解するから残しておいてあるのかな、とか、そんなことを漠然と思っていたので、いつもスルーしてた。

それでも、たまに気になり直したりするもので、その日は本部にいる年配の先輩社員に話を聞いてみる事にしてみた。

先輩にその話をして帰ってきた言葉は次の通り。

「そんなことをしたら帰れなくなるじゃないか、帰りの道が無いのは嫌だろ?」

帰ってきた言葉を聞いた時は、壁が無いから何処からだって出られるし、鉄筋やら何やらが落ちていて危ないけど、ライトで照らせばよけて通ることだって可能だとか思った。

その時の先輩との話では納得は出来なかった上に、私は前にも増して例の残ったドアが気になるようになってしまった。

それからの夜勤は、残ったドアが気になってしょうがなくなり、例のドアの周りを回って観察したりしていた。

何日か経った夜勤の最終日。いつもの解体現場の見回りを行って、またドアを見ていた。解体現場はもう基礎の解体も終わり、いよいよ残すはドアだけだった。

雨ざらしで錆びついたドアをライトで照らしつつ眺めて、これで見納めだなと思った後、ドアに背を向けて帰ろうと解体現場入口に止めてある自転車まで行く途中、背中にバシッとした衝撃が入り、

「夜勤お疲れさん。がんばってな。」

と声をかけられた。

私は衝撃もあって驚いていたが、口調が現場の人っぽかったから、反射的に後ろに向き直り、

「ありがとうございます。お疲れさまでーす。」

と返事をしたが、視界には数m先に例のドアがあるだけだった。

おかしいと思いきょろきょろしているとまた、バシッとした衝撃が背後から入り、

「お疲れ。お先です。」

と別の声がした。

やっぱり人が見つからない。

だが、ドアが開いていた。

自分には開いた覚えは一切無かった。さっきも開いていただろうか?

構造上ドアノブを回さないと動かない、風邪なんかじゃ動くものじゃない。

なんか気味が悪くなってドアから逃げようとしたら、バシッと三度目の衝撃が背中に入り、

「サボるなよ若いの!!」

と、声をかけられた。

それと同時にドアがガチリと閉まり、胸の無線機が突然、ギュイーンザザザザザ、とノイズを響かせた。

びっくりし過ぎて半ば飛び上がるかのように背筋が伸び、走り出した。鍵をかけていない自転車に急いで乗り、本部に全力で帰った。

汗だくれで帰った私がよほどおかしく見えたのか、例の話をした年配の先輩が声をかけてきた。

その先輩に、

「背中を三回叩かれて、ドアが開いてて閉まって、無線機から音が変だった」

とか、聞いていて訳の分からない事を私は言っていたと思う。

だけど、その話だけで先輩はかなり理解したようで、

「三回ってのは、三人分か?」

とか、

「ドアは最後に閉まったんだな?」

とかを聞いてきた。

私は気が動転していたが、先輩に話が通じた安心感からか、私はそれらの問いかけに、はい、はい、とまともな返事が出来ていたと思う。

すると、どこかに電話をかけ始めた。たぶん相手は上司だと思う。

「はい、例の若いのが。はい、そうです三人分だと言っています。ドアも閉まったと言っています。はい。…はい。」

しばらくして電話が終わり、肩を叩いて、

「ようやった。今日は後飯食ってのんびりしてていいぞ。」

といった。

その日は朝の帰りの時間まで本部の食堂でのんびりと言うかぐったりしてた。

次に先輩に会ったときこんな事を話された。

以前の製鉄所は安全第一とは程遠い作業場状況で、ただでさえ厳しい生産ノルマを超えられれば超えるほどいいと言う風潮があった。

そんな状況で作業を続ければ当然怪我人が出たし、運悪く死ぬ人だってもちろん出た。

あの工場ではそれが三人だったと言うことだ。

作業員には挨拶は必ずすることと、現場のドアは必ず閉めて帰る事が昔から教育されているので、どんな状況でも必ず実施するだろうと言うことだった。

聞いていて結構怖くなったが、同時に「どんな状況でも」と言うところに何となく、悲しさというかなんと言えばいいかわからない不思議な感情が起こった。

最近の工場設備ではラチェットドアは重いし整備が悪いと動きが悪くなるので、あんまり見かけない。それでも古い設備は会社の敷地には結構あるし、そのドアもまだいくつかはある。

古い設備の解体現場をひとりで見回る時は、あんまりドアには近づかないようにするようになった。この仕事はまだ続ける気だ。

あの解体現場はもうすっかり更地だ。緑地の増加の為に芝が植えられて綺麗なものだが、三ヶ所だけ妙に芝の育ちが悪く、枯れやすい場所が有る。そういう場所の環境改善もまた、俺達の職場の仕事だと言って。年配の先輩は芝の手入れをする業者にこの間電話していた。

駄文長文で申し訳ありませんが。こんな話です。お疲れさまでした。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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