短編2
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天狗の山

祖父から聞いた話だ。

私の本家は長野県の山里にある。

代々、猟師の家系で 祖父は曾祖父より幼子の頃から猟の手ほどきを受けたそうだ。

青年期、そろそろ一人で猟がこなせる様になってきた頃、

祖父はイワタケを取りに山に入ったそうだが、

イワタケがある場所は険しく滑落してしまい、

足に深い傷を負った。

何回か明るくなり暗くなりを繰り返し、

助けを呼ぶ気力も失せかけ、

死の恐怖が襲ってきた。

震えが止まらずに身体を丸めていると、

(おーーい!)

と声が聞こえた。

慌てて声を振り絞るが返事は無い。

幻聴か、と落胆するとガサガサと茂みが かき分けられているのがわかった。

助けが来た!

助かった!

そう思ったのもつかの間、

現れたのは紅い顔、 長い鼻、山伏の様な衣装を纏った正に天狗そのものだった。

祖父は気を失ったそうだ。

どれくらい気を失っていたか?

気がつくと傍らに綺麗な女性がいたそうだ。

びっくりしていると、

その女性は(我が主の命令であなたを助けますが、神域であるこの場所には誰も近づけないと約束して下さい)

の様な話をしたそうだ。

祖父は約束した。

女性が優しく笑むと

祖父の手を取り、

綺麗な沢まで案内したそうだ。

足には気を失っていた時に治療してくれたのか、

笹の葉が巻いてあった。

深い傷を負っていたが軽い擦り傷程度になっていたという。

(この沢を下れば村までいけるはずです)

祖父は礼を言って村まで戻ったそうだ。

その後、戦争が始まり祖父は近衛の騎兵になり尽力し、

戦後は猟師を廃業し農家で成功した。

神域の山を所有して人は一切寄せなかった。

数年前他界したが、その少し前に重度の痴呆が始まって町の総合病院から脱走した時、

朝フラフラと実家に帰ってきたそうだ。

足には切傷と笹の葉が巻かれていたとばあちゃんが話していた。

(綺麗なおんなの人に逢ってな、そろそろ迎えがくるずらい)

と言っていたそうだ。

昔話をボケてない時代の祖父から聞いていた私は、天狗の使いに会ったのだなと 何か暖かい気持ちになったのを憶えている。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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