短編2
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おいねさん

亡くなった祖母から聞いた話だ。

私が二十歳前半くらいか、

夜遊びして帰ってくると夜中にも関わらず起きて待っていてくれて夜食のうどんを作ってくれた。

うどん食いながらよく昔の話をしてくれたのだが、

その中にちょっと恐いなって感じの話があった。

今回はそれを書いてみよう。

祖母の実家は八ヶ岳付近の集落であった。

その昔、集落には「おいねさん」と呼ばれる女の人がいたそうだ。

おいねさんは今で言う知的障害がある人で、

ボロボロの着物を着て髪はボサボサ、

歯をぎりぎり軋りながら笑う癖があり、

幼子だった祖母にはたいそう怖かったそうだ。

当時その集落では夜中に台所から物音が聞こえるという現象が多発していた。

ある、おじやんがその物音に気付き台所へ向かった。

「誰ぞおるんか!」

と言うと薄暗い台所から

「おいねだ!おいねだ!」

と声がして木戸を勢いよくあけて逃げていくおいねさんの姿を見た。

おいねさんは貧しく空腹を満たす為に夜中に余所の家の台所に忍びこんでは釜の飯を盗んで食べていたのだ。

不憫に思ってか、

あえておいねさん用に食事を残しておく家もあったそうだ。

しかし、貧しい村の貴重な食料だ。

快く思わない人たちもいたようだ。

おいねさんは誰かに撲殺されてしまったらしい。

首の骨が折られ、

曲がらないような方向に捻れてしまっていたらしい。

それからしばらくして集落の家々から夜中、

ぎっ…

ぎっ…

ぎっ…

と音がする様になった。

まるで人の歯軋りみたいな音だった。

程なく、

ある村人はおいねの生首がくると言って精神に異常をきたして入水自殺した。

またある家は熱心に神仏を拝み、「何か」に赦しを求めていたが、

結局その家の息子は不気味な歌を唄いながら、

異常をきたしてニタニタ笑いながら死んだそうだ。

その家々はおいねさんを生前快く思ってない人達の家だったから村の人たちは、

「おいねが祟ってるのかもしれん」

と思ったそうだ。

村人はおいねさんの供養の為、

いね塚を作って拝み、毎日食事を供えたそうだ。

それから村で異変がおこる事は無くなったそうだ。

いね塚付近で子供の頃に遊んでいた私はちょっと背筋が寒くなったが、

心の中で合掌した。

怖い話投稿:ホラーテラー 新聞屋さん  

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