中編6
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聖歌

森① 聖歌

フィクションで物語風に書いています。

自分は、今、都会に住んでいますが、ある一時期、とても自然豊かな場所で暮らしていました。

自然豊かといっても、それは悪い言い方をすれば、とても辺鄙(へんぴ)な場所。

数々の怖い経験、貴重な経験をしました。

私が今、話すことは、いわゆる教訓的なことであって、都会は便利でもあるが、人にとっては都会はストレスが溜まる場所でもある。

そのストレスから解消されたく、逃避的に自然豊かな田舎で暮らしても、

そこはそこで理解できないことが多々あるということ。

例えば、自殺志願者が、なぜか富士樹海などの自殺の名所に導かれるというか……。

森というのはメルヘンっぽく、聞こえは良いですが、いざ、その森の中に入ってみると、

草木が鬱蒼としてて、その森に、自分の生命力が奪われるという感覚になる。

ぶっちゃけ遭難し行き倒れし、死体となって土の中に埋もれては、森の中では気づきませんしね。

ちなみに、私が住んでいた場所は教えませんし、勧めません。

題名は『 聖歌 』

当時の僕らは、ノリノリの若者で、ヒッピーのような奴らでした。

だけど、我々は、それなりに自分のすべきことをし、青春を謳歌していました。

歌を歌い、夜空を見上げ、将来の夢を語り、当時過ごしていました。

ある夜のこと、滞在していた施設の警備員Aさんが、

夜更かししている僕らに、懐中電灯をつけたまま、いきなりやってきたのです。

僕ら、またAさんに、「 お前らうるさい!何時だと思っているんだ! 」と言われるのかと身構えました。

すると、その時に限って警備員Aさんの様子がおかしい。

当時、傲慢な僕らは、嘘八百でその場の乗り切ろうと思っていたのに、

そのAさんのなんともいえない姿を見て、拍子抜けし、逆に彼を心配しました。

僕 「 ……Aさん、どうしたんですか? 」

すると、Aさんは誰が見てもわかるようにブルブルと震えだす。目が一点集中というか……。

僕らが、常に夜更かしを、夜騒ぎまくっていたので、とうとうAさんが、ブチキレてしまったのではないか?と思いました。

僕 「 冷静になってください! 僕らは、これから帰ります 」

A 「 ちょっと! ちょっと待ってくれ!! お前ら、警備に付き合ってくれないか! 」

僕らは、Aさんから予想もつかない言葉を聞く。

すると、警備員Aさんは、唇に人差し指を立てて、声を出すなという仕草を見せた。

僕らは耳を澄ました。

僕らは歌が好きだったので、聴覚が音楽に慣れていて、その微か物音に気づかなかったのだ。

Aさんの仕草から、はじめは泥棒か!と思いましたが、

よく聞くと、その物音は『 曲 』でした。

それも、キリスト教か何かの聖歌のような曲です。

……とりあえず、少女の美声の聖歌という曲ではあるが、音慣れしている俺らが聞くと、やはり違和感のある音だった。

その音楽は、ラジカセを使用して、誰かが曲を流していると判断した。

僕 「 うわ、なんか、この曲、聖歌っぽいね。鎮魂歌というか…、お前は聴こえる? 」

友 「 うん、聴こえる! けど…、これは…、誰かがレコードをかけてんじゃないカネ? 」

すると、警備員Aさんは、目をマジにして、怒り出す。

A 「 バカやろう! この曲は…、10年前から鳴り響いてんだよ。夜2時ごろ、夏になると流れるんだよ! 」

僕らは、警備員Aさんが、僕らを騙すため、何か仕掛けていると疑いだし、

余裕な態度で、この時間帯で起きてるだろうと思われる先輩に、携帯で電話を入れた。

すると、その先輩も仲間と晩酌をしていて、その聖歌の現象を知っていた。

先輩は、実際に聖歌を聞いたことはないというが、有名な心霊現象として受け継がれているという。しかも、この先輩、後に助けに来ない(笑)

僕らは、警備員Aさんの言っていることが本当だと思い、半ば面白半分で、Aさんに付き合うことにした。

夜更かし組は男女含め6人程度。

おのおの、そこらへんにあった物を武器にして、Aさんに付き合う。

僕はロッカーから、長柄ホーキとチリトリで戦士気取り。

すると、Aさんは独り言をいう。

A 「 ケリをつけてやる! 」

その言葉によって、僕らは、このAさんはおかしくなっている!と思う。

僕らは、自分らがいた部屋のある施設を出て、いったん外に出た。

外は『 森 』

午前2時で、当然、灯りが全くない。ぜんぜんない。

電気のついている部屋は、本当に自分らがいた部屋だけだった。

当然、灯りは警備員Aさんの懐中電灯だけ。

他は月明かりや、携帯の灯りのみだった。

警備員Aさんは、その土地にある他の施設に、眼をこらしたが、僕らは、まず耳を澄まし、音源を捜した。

すると、この聖歌……、『 森の中 』から聞こえる。

僕らはだんたんと怖くなっていく。特に女性はパニック状態に近い。

僕らは、Aさんに聞く。

僕 「 こりゃ、おかしい。Aさん、本当のことを教えてくれませんか。

    Aさんが、そこまで怖がるんだったら、なにか過去にあるだろ! 」

あまりにも行動がおかしいAさんを見て、僕らは、Aさんが人を殺したのではないか?と疑ったが、真実を聞くと近からず遠からず。

A 「 実は……、10年前くらいに、女の子が行方不明になってな。まだ、消息不明なんだ。

    今流れている曲は怖いけど、正直かわいそうだ! 」

僕 「 ……マジか。けど、なぜにその女の子の行方不明が、Aさんに関わりがあるですか?

    Aさんの知り合いの女の子なのですか? 」

A 「 お前たち都会人は、お盆や正月になると。実家に戻るだろ?

    けど地元の子供たちが年中遊べる場所は、唯一この施設だけなんだよ。

    俺は、お前たち都会人全員が実家に帰れば、ここで警備をする必要ない。

    だから、正月、お盆になれば、施設の鍵をかけてしまう 」

僕らはAさんが何を言いたかったのか?、判断するのに時間がかかったが

判明すると「 まさか! 」と思い、ギクッとなる。

結局、どういうことかというと

この警備員Aさんは、10年前、お盆か正月に、

若者の帰省で、誰もいなくなったこの施設を十分に見回らなく、誰もいないと思い込み、鍵をかけてしまったということ。

仮に、その10年前に行方不明になった少女が、

誰も知らないうちに、この施設に潜り込んで、取り残されていても、おかしくないということ。

僕らは、この警備員さんが優しさ故に、

自己嫌悪や罪悪感の妄想に陥ってると思い、最後の最後まで付き合った。

付き合うといっても、結局、真に、森の中から聴こえる少女の聖歌は原因不明だった。

警備の最後に情熱的な友人Pが、警備員Aさんにいう。

P 「 Aさん、それは事故だぜ 」

表情が変わらない警備員Aさん。

PはAさんの両肩に両手を乗せると、目を合わせ、もう一度説得する。

P 「 Aさん、例え何があったとしても、それは事故だぜ!

    Aさんが考えていることは、Aさんに非があると思っても事故だぜ!時効だぜ! 」

その場にいた女性たちも、Aさんの心を察してかシクシクと泣き出す。

ドライな俺もAさんにいう。

僕 「 まぁ~、仮に聖歌と行方不明の少女の不幸が関係しているとしても、それはそれで弔いと思えばいいんじゃないですか?

    Aさんの気持ちが晴れてくれるほうが、俺は良いと思う…… 」

Aさんは硬い表情のまま。そのままAさんは無言で宿舎にかえっていった。

一方、僕らはそれから30分くらい、月明かりの中、その聖歌を聞いた。

怖いという感情もあるが、その謎を解きたい浮ついた心もあったんだろう。

しかし、不思議なのは、その聖歌が、生声ではないということはわかるんだが、一向と途絶えることもなく続いているということ。

もし、仮にカセットテープやCDならば、どこかで途切れるはず。

しかし、途切れない。どんなけ長い聖歌なんだよとツッコミたいくらい……。

結局、僕らは飽きて帰った。不思議なことに、6人とも怖からず、各々の宿舎へ。

次の日、その警備に参加した男性のみで、午前2時、もう一度、その聖歌を聴きにいった。

やはり、聖歌は流れていた。

しかし、少し変わった所があった。

それは警備員Aさんが、施設ではなく、森に向かって懐中電灯を向けているということ。

僕らはいたたまれなくなり、同時に、この聖歌が全く気にならなくなり、この話はしなくなった。

終わり。

怖い話投稿:ホラーテラー youさん  

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