中編5
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とある賃貸住宅

これは私が体験したお話です。

私は、不動産会社に勤めております。主に賃貸住宅専門です。

ある日、店頭にお客様がいらっしゃいました。

見た目は、ごく普通の若い女性の方でした。

お客様のご希望を聞き、何点か間取り図を見せた後、実際にそのお部屋を見に行ったのですが、気に入ったお部屋は無いとのこと。

あ〜このお客様とは縁が無かったな〜と思いながら、話のタネにと曰く付き物件をご紹介しました。

その曰く付き物件は、自殺者が3名も出ていて、ご入居された方も1ヶ月ももちません。借金してまで退去される方もいらっしゃいました。

退去理由を訪ねますと、皆さん揃って「包帯でグルグルの女に殺される」とおっしゃていました。

ここで不思議なのは、そのマンションは弊社で建てた物件で、新築時から管理しております。最初と二人目の自殺者は首吊りで、三人目は服毒自殺でした。いずれも女性でしたが、包帯でグルグル要素はないのです。

曰くの内容はそんなカンジですが、しかし、家賃は相場の3分の1。

破格でございます。

すると、そのお客様は、曰く付き物件を見たいとおっしゃいました。

どうせ契約にならないのに面倒臭すぎると思いながらも内見へ。

そのアパートは実は割と築浅で、しかもデザイナーズマンションでとても曰く付きには見えません。

そのお客様はその曰く付きマンションを契約するとおっしゃいました。

かなりビックリしましたが、弊社としてはラッキーです。

すぐさま契約させていただきました。

このお客様が、実は霊能力者のようなこともなさっていると知ったのは、2週間ほど後になります。

普段は普通に会社勤めをされているのですが。

そして契約から3ヶ月。最長記録を更新していた霊能力者さんでしたが、ある日、ついに自殺未遂をおこし、病院に運ばれました。

深夜、隣室の方が、尋常じゃない悲鳴と物音を聞き、警察に通報したのです。

あっ、ちなみに曰く付き部屋の隣と上下の部屋の家賃も格安です。

警察に呼ばれ、部屋のマスターキーを持って駆けつけた上司は、鍵を開け、風呂場が血の海になっているのを確認して失神し、霊能力者さんと一緒に救急車で運ばれました。

霊能力者さんは、自殺行為までした入居者様の中で、初めての生存者となりました。

救急車で運ばれた上司は、すぐ帰宅したそうです。

私は、入院している霊能力者さんのお見舞いに行きました。

いえ、お見舞いというよりは賃貸借契約をどうするか、という話をするために会いに行きました。

「こんにちは。お加減はいかがですか?」

私は買ってきた花束を渡し、パイプイスに座りました。

「ありがとうございます。」

霊能力者さんは、若干やつれてはいましたが元気そうでした。

「…ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

「いえいえ。人生には色々ありますよね…それでお部屋は…」

「違います!!」

霊能力者さんが、突然叫びました。

「…えっ?えっ?あっ?すみませんっ」

霊能力者さんは普段おっとり系なので、突然の大声に驚き、私は何故か謝ってしまいました。

「…違うんです。すみません。大きな声だして…」

以下、霊能力者さんの話を簡単に説明いたします。

話をしたと思うが、自分はかなり強い霊感があり、そういう家系に産まれた。今回のマンションも何かいるのはわかったが、内見の短い時間では、何かが何なのか分からなかった。

だが、激安なオシャレマンションにすみたいと思ったことと、これまでの経験からなんとか出来ると思った。

最初の2、3日は何も起こらなかったが、4日目位から異変が起き始めた。トントンと物音がしたり、扉が勝手に開いたりした。次第に人の息づかいが聞こえてくるようになった。ラマーズ法のようなヒッヒッフーという呼吸音だ。だが、正体が何なのか、まだ分からなかった。そのうち包帯を巻いた女のイメージが強く浮かぶようになった。そして包帯女が四六時中、自分を監視している。

気づいたら、水を張った浴槽の中で手首を切ろうとしていた。

ビックリして包丁を放り投げてしまい、浴槽から出ようとした時、水の中の包帯女と目が合った。それから投げた包帯を拾い上げ、自分の意思とは関係なく手首を切ってしまった。

「…私は人生に絶望したりはしていません。むしろ死にたくないです。…私、嫌だ、死にたくないって叫んだと思います。」

その話を聞いた時は、信じられませんでした。しかし、彼女が嘘を言っているようにも見えませんでした。包帯女も前の入居者達と一致しています。

「…包帯女ですか…」

「…はい。…それで…あの、お願いがあるんです」

「…なんですか?」

「あれは、霊じゃないと思うんです。」

「え!?」

「…でも、実物を見ないと」

「実物ですか…」

「私は部屋中探しましたが、見つけられませんでした」

「…何ですか?」

「多分、人形です」

「…」

「…見つけて、持ってきてくれませんか?」

え…。俺…?

やだやだやだやだ

私は霊能力者さんと口約束しましたが、部屋に行く気は全くありませんでした。

適当に流そうと心に決めていました。

店に戻り、先輩にその話をすると、「行ってみっか」

結局、先輩命令に逆らえずその日のうちにマンションへ行きました。お昼なら大丈夫だろうと思ったのと、来客が少なく暇だった為です。

さて、マンションに着き例の部屋の扉を開けると、玄関先にいきなり盛り塩がありビビりました。

しかし、それ以外は普通で、ほっとしたのを覚えています。

私と先輩は、人形らしきものを探しましたが、それはあっさり見つかりました。

トイレの貯水タンクの中です。

なかなか取りだしずらく、台所にあった菜箸をお借りして取り出しました。

出てきた人形は、手のひらよりも小さく、誰かの写真を白いテープでぐるぐる巻きにして張り付けてあり、その上から数十本のマチ針が刺され、ビニール袋に入れてありました。

私と先輩は、その人形を持ってきた袋に入れて、速攻で霊能力者さんのところに持っていきました。

以下、霊能力者さんの話です。

これは呪詛で、多分、一番最初に自殺した方のもの。普通、呪いは生きた虫や小さな動物を使うが、自分の命を使って呪詛を完成させたのだろう。だが呪いは成就しなかった。おそらく、写真の人が呪い完成前に別の理由で亡くなった為。そして呪いが反ってきたが本人はいない。結果、呪いの作用のみ部屋にとどまり(正確にいうと人形に)現在に至る。他人を殺しても目的の達成にならず、人形がある限り自殺者は出る。

私は、あまりにあまりな話の為、信じられませんでした。

霊能力者さんの話を聞いて、会社に戻った後、一番最初に亡くなった方の契約書を見てみました。

かなり美人で、若くて、一流企業に勤めていて、同年代の女性より遥かに高額な給与をもらっていました。

そんな、他人から見れば羨ましい人生を送っている彼女に何があったのでしょうか。

自分を犠牲にしてまで殺したい相手とは、どんな方なのでしょうか。

その方との間に何があったのでしょうか。

結局、霊能力者さんは部屋を解約し、ついでに人形も引き取ってくださいました。

その後、新入居者が決まりましたが何事も無いようで入居記録更新中です。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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