中編4
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天袋の人形

男友達のSの体験です。

ちょうど去年の今頃、Sはアパートに引っ越しました。

酒、奢るから…と友人3人に頼み込んで、トラックを半日レンタルするという、超低コストな引っ越しでした。

手際は悪かったようですが、大急ぎで荷物をとにかく部屋に運びいれました。

そうして足の踏み場も無い状態ながら、取り敢えずトラックを友人の1人に返しに行ってもらい、S達は一息着きました。

「K(トラックを返しに行ってる友達)が戻ったら、飯食いに行こうぜ」

なんて話していた時、

「ごめんください」

開けっ放しの玄関から声がしました。

午前中にも、引っ越しに目ざとく気付いた新聞の勧誘員が訪ねてきたので、Sはわざと不機嫌な表情で出てみました。

が、そこに居たのは60歳位の初老の女性でした。

「お忙しい所すみません。今日越して来られたんですよね」

「ええ、まあ…」

「あの…6畳の部屋の天袋に…人形が入ってるはずなんです」

「人形?」

女性はその人形を取りに来たとの事でした。

Sは、彼女が前の住人なのだろうと考えました。

とにかく、人形なんかあっても困るので、

「ちょっと待ってて下さい」

と、すぐに天袋を調べたそうです。

と言っても、まだ部屋の中はごちゃごちゃの状態。友人達に押し入れ前のスペースを開けて貰い、天袋を調べた時は、10分近くかかってしまいました。

確かに人形はありました。ガラスケースに入った日本人形が。

Sがなんとか引っ張りだして、

「ありました」

と、玄関まで持って行くと、何故か女性は姿を消していました。

「あれ?…何だよ。おばさん消えちゃった…」

「薄気味悪い人形だな」

友人の1人が呟きました。それはごく普通の日本人形だったのですが、普段あまり目にしないものだから、気味悪く見えたのでしょう。

やがてKが戻って来たので、一同は食事に出てしまいました。

「留守中に又、おばさん来るんじゃね?」

「…良いよ。そこまで気ぃ遣ってられねえよ」

食事から戻ってからは、家具の移動に結構苦労したそうです。何しろ、やみくもに突っ込んでしまっていましたから。

人形はずっと、玄関の下駄箱の上に置いてありました。

ドアも開け放してあったので、おばさんが戻って来て、勝手に持って行ってくれれば良いと思っていたのですが、ついに彼女は現れませんでした。

家具をある程度動かしたところで、友人達は解散。

「約束通りちゃんと奢れよ」

彼らは念を押して帰って行きました。

Sはふと、あの人形に気付きました。

こんなもの、ずっと置いては置けないな…

そう考え、取り敢えず不動産屋に電話してみました。

「おかしいなあ…天袋の中はちゃんと調べたはずなのに」

不動産屋の親爺は、まず人形が残っていた事を不思議がり、それから以前住んでいたのは、Sと同じ年齢の男性だったと言ったそうです。

「携帯番号はわかりますから、聞いてみます」

親爺はそう言ってくれました。

しばらくしてから、折り返し電話が入りました。

以前住んでいた男性は、天袋に人形が残っていた事…更に今日、女性がそれを取りに来たものの受け取らず帰ってしまった事を聞いても別に訝しがりもせず、

ただ“そちらで処分しちゃって下さい”と言ったそうです。

Sは、処分まで任されてはたまらないと思い、不動産屋に人形を持ち込む事にしました。

それで、その日の内に人形を届けたそうです。

その夜ー

Sはすっかりくたびれてベッドに倒れ込みました。

まだ、細々した片付けは残っていたけれど、続きは次の休みにやろう…そう考えたそうです。

真夜中…物凄い動悸がして、Sは目覚めました。

心臓がビクビク動くのが、Tシャツの上からもわかります。

引っ越しで疲れたのかな…Sは動揺しました。

とにかく、鼓動が治まるのをじっと待っていたそうです。

その時…

「すみません…人形を取りに来ました…」

耳元であの女性の声が聞こえました。

「!」

Sは硬直し、部屋を見回しました。もちろん女性は居ません。

そのかわり、半開きになっている天袋が目に入りました。

あれ?…確か…閉めたはずなのに…

Sは脂汗を流しながら、天袋を凝視していました。

「人形を…取りに来ました…」

再び耳元から声がしました。

Sは破れかぶれに言いました。

「すみません!人形ここには無いです!不動産屋に聞いて下さい!」

その後、気が遠くなり、どうやら気絶してしまいました。

それから、人形や女性がどうなったかは知りません。不動産屋にも、何故か聞くのを躊躇ってしまうそうで…

ただ、あの天袋には荷物をしまう気になれず、一年経っても開けてもいないと言ってました。

怖い話投稿:ホラーテラー おみつさん  

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