中編3
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見つめる母親

※注 長文です。ですがウチの嫁さんの実体験です。

11月12日に産婦人科で長女を出産。「あかね」と名付けた。

初産で、しかもお互いが望んだ女の子だけあって、手放しで喜んだ。

その後、初めて抱いた我が子の小さな体に、愛しさで胸がいっぱいになった。

可愛くて仕方がない。

当然ながら、毎日仕事終わりに病院に直行。

ガラス越しに名前を呼んだり、抱かせてもらったり、小さな手を握ったり。。。

しかし産後3日目に、いつもの様に病院に立ち寄ると、嫁の表情が明らかに暗く沈んでいる。

「どうしたの?」と聞くと、うつむいた嫁は

「夜、怖いの…。また…あの女の人…。」と言った。

嫁のその一言で、一時だけ忘れていた事をすぐに思い出し、温かい感情が一気に冷めた。

嫁は昔から少しだけ霊感があった。

そして妊娠中に突然現れ、以後付きまとう様になった女の霊に悩まされていた。

度々出てくるその女は、産婦人科に通院し始めた頃に初めて見たらしい。

---以降、妊娠中の嫁の話---

妊娠中、嫁は定期健診で病院を訪れる度に、待ち時間や帰り際に新生児をガラス越しに眺める事を楽しみな日課にしていた。

 

いつもは新生児の両親や親類、友人なりがガラスの前に居た為、遠慮がちに端から新生児を眺めていたそうだ。

しかし、その日はたまたま運良く、新生児ルームの前には誰も居なかった。

ここぞとばかりに真ん中に陣取り「かわいいな~♪」と眺めていると、

急に真後ろから覗き込む様な気配を感じて振り返った。

そこには20代半ばの女性が立っていた。

目が合い、咄嗟に「空気」を感じた嫁は逃げる様にその場を立ち去った。

明らかに生気の無い肌色と、大きな黒目…。

「何で? 何でこんな場所で見えるの?」と思いながら、立ち去る途中振り向くと、

女は涙を流しながらガラスに手を当て、新生児を見ていたそうだ。

それから度々、女は嫁の前に現れた。

ただ、何する訳でもなく、口を真一文字に閉じ、嫁のオナカを見つめるだけ…。

と、自分が嫁からこの話を聞いたのは、その出来事から暫くたった、臨月になってからの事だった。

心配になり、「何で今まで隠してたの? 大丈夫なん? 」と聞くと、嫁の返答は意外にも

「大丈夫…と思う。いつもその人、ただ見てるだけだから。最近は出てこないし」と、楽観的だった。

---以降、産後3日目夕方+退院後に聞いた話---

娘を出産したその日は何事もなかったそうだ。

しかし産後二日目の深夜、嫁は突然の金縛りに遭う。

同時に、授乳の為にすぐ横に寝かせてある、赤ちゃんの方に気配を感じた。

目で追うと、女が枕元に立っていたそうだ。

嫁は恐怖から逃れようと、必死に知り得る限りの念仏を頭の中で唱えた。

すると女は初めて口を開き

「んん…んあぁぁ、、あ、あた…しの、赤ちゃ…ああぁぁあっ!!」

と、赤ちゃんに手をのばしてきた。

「ぎゃあぁぁー! やめてぇぇぇー!!!」

と、嫁が心の中で叫ぶと女は手を止め、

「さおり、、、さおり、、、さおちゃん…」

と誰かの名前を呼び、一瞬浮かんでスッと消えたそうだ。

体の自由が戻った嫁は、即座に赤ちゃんを抱きかかえ、

「この子を連れて行かないで下さい。お願いします。」

と何度も願いながら、朝まで一睡もしなかったと言っていた。

そして翌日から退院まで、女の霊は現れなかった。

病院の方にも、嫁は過去の経験から『変人扱い』されるのが嫌で、最後まで言わなかった。

と、退院後に嫁から話をすべて聞いた後、二人で考えた。

自分達が親になって、この子の為なら何でも出来るって思った。

もし、あの女の霊が病院で亡くなったお母さんで、

我が子をこの手に抱けないまま亡くなったと想像すると、胸が痛い。

さぞかし無念で堪らなかっただろうと思う。

ご冥福をお祈りします。

怖い話投稿:ホラーテラー 甚兵衛さん  

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