中編3
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粘着

大学の頃の話。

私は気弱で、大学でも心理学サークルだとかゴスペルサークルだとかのいわゆる偽装サークルの勧誘に巻き込まれることがよくあった。

入学して半月くらいたったある日の昼。食堂でご飯を食べていると、知らない男が隣に座ってきた。毛は染めてないし、顔つきも平凡で地味な感じだった。服装も高校生に毛が生えたみたいで、見るからに安物の、十字架に棒みたいなものをくっつけた形のネックレスとピアスを着けていた。

椅子に腰かけるや否や、彼は私の方を睨んで、

「XXX(私の名前)、てめえ横入りすんなや」と怒鳴った。

え? 食券購入のときも食べ物もらうときもちゃんと並んだはず! それに、明らかに初対面の人間が何故名前を知っているのか? いきなりだったので頭が混乱しつつも、

「食べ物のことなら横入りしてませんが」

と返す。

ところが、男はまだこちらを睨みつけて、

「違う、前の授業でてめえ出席票を俺の前に割り込んで出しただろ」

と言う。

だけど、やはり前の授業でも割り込んだ覚えはないし、そろそろ本気で気味が悪くなったので、トレイを持って別のテーブルに移動した。男はたまに視線を送ってくるけれど、移ってくるような素振りは見せなかった。

それから数日後、また別の授業。

あの昼から、教室内に男がいないかどうかチェックするのが習慣となった。今回は見回して、どこにもいないのを確認すると目立たなさそうな窓際の席を選んだ。結構大人数が受講してる授業なので、人混みに紛れていればいいはずだ。そのまま男は来ることもなく、授業が始まる。

開始20分かそのころ、突然ドアがバタンと開いて、誰かが入ってきた。ちらと見ると、下品なアクセと地味な服装が目に映る。あの男だった。存在を確認すると胸の動悸が早まった。

こっちに来ないで、こっちに気づかないで、と私は心の中で祈り続ける。

男は物色するように教室を見回し、突然にやにや笑いを浮かべて

私の隣に座った。

なんで!? なんでわざわざここに!?

男が送ってくるねばついた視線が不愉快でたまらない。掌がじとっと汗ばみ、耐えきれなくなって、気持ちが悪いふりをして教室を出た。

その後数ヵ月はなんともなかったが、視線とかがどうにも怖くてたまらなかった。高校からの友達に相談しても「そりゃあんたの名前が知れ渡ってるんでしょ」とまともに取り合ってくれなくて。

そんなこんなで7月ごろになって、レポート提出(教授の部屋の前のポストに入れないとダメだった)のため大学構内を移動しているとき。

またあの男に出くわした。

今度はチャラチャラした感じの連中を引き連れて。男達はわたしの姿を視認すると大声で名前を呼んで追ってくる。

これはまずい!

そう思った私は、近くのトイレにダッシュして個室に入り鍵をかける。そうしているうちにも複数の足音が聞こえてきて、なんと大所帯で女子トイレに入ってきた!

男たちは隠れている個室をめざとく見つけ、殺すぞ! だの、死ね!だの言いながらガンガンドアを蹴る。

たまらず、ずっと粘着してきて気持ち悪い、いい加減大学と警察に訴えると叫んだら、さすがに逃げていった。

それからは粘着されるようなことはなくなったけど、大学内の偽装サークルが摘発されたことを知らせる掲示を見てぞっとした。

摘発されたサークルの元を締めてる宗教のマークが、十字架に棒を立て掛けたあのネックレスのものとまるきり同じだった。

あれは勧誘だったのか? しかし、勧誘にしてもどうしてあんなにしつこく、乱暴に迫ってきたのかは今も分かっていない。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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