中編5
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託した。

彼女と出会って、もう3年になる。僕の勤めている会社に彼女が入社してきたのだ。

第一印象は、女教師。それもAVに出てくるような、分かりやすい女教師だ。冷たい印象を与えるくらいの美人で、僕は一目惚れした。

彼女の名前は美樹という。今は僕の恋人だ。

付き合い始めてからわかったのだが、彼女の霊感が半端ない。今まで一度も霊なんて見たこともないのに、一緒にいると僕にもうっすらとだが見えるのだ。

「ねぇ、今度の土曜日、叔父さんの家に着いてきてくれない?」

付き合い始めて、2ヶ月くらい経った頃に彼女がそう言った。

彼女の叔父さんは、早くに奥さんを亡くし、子供にも恵まれなかったために、実の娘のように彼女をかわいがってくれたらしい。

昔から、彼氏が出来たら一緒に遊びにおいでと言われていたらしく、ドライブがてら行こうとのこと。

僕は人見知りするし、正直あまり行きたくなかったのだが、彼女かわいさについOKしてしまった。

後で、この決断をおもいっきり後悔する事になるとは知らずに…。

僕らの住む街から、車で二時間ほどの県外れに叔父さんの家はあった。

周辺はキャベツ畑が多く、見晴らしがいい。

二人でこんな所に住むのも悪くないなぁと妄想してると、遠くから彼女を呼ぶ声がする。

「おーい、美樹!こっちこっちぃ!」

自転車のカゴに買い物袋を詰め込んで、叔父さんが立ちこぎしながら手を振っている。

「あー、トシハルおじさん!久しぶりぃ」

軽く挨拶を交わし、早速家におじゃまする。

まだお昼だというのに、室内にはカーテンが引かれて薄暗く、空気がどんよりと重く感じる。まるで、外とは別世界だ…。

「ごめんなー、病人がいるもんでよ。」

「こちらこそ、急にごめんなさい。叔母さん体調悪いの?」

「あー、先週ぐらいまでは調子良かったんだけどなぁ…」

叔母さん?亡くなってるんじゃなかったっけ…?と彼女に視線を送ると、黙って首を振る。

今は聞くなということらしい。

たった今、買ってきたばかりのたい焼きを出してくれた。

「ありがとー。あっ、私、お茶入れるね。」

彼女が席を立つと、叔父さんはたい焼きを2つほどお皿にのせて、そのお皿を手に部屋を出ていった。

僕はさっと立ち上がり、彼女に近づき小声で聞く。

「お、叔母さんって?」

「あー、言ってなかったっけ?再婚してるの。」

納得。

「二人とも、今夜は泊まってくか?」

と言いながら、叔父さんが戻って来た。

「えっ?いいの?迷惑じゃない?」

「なぁに、大丈夫大丈夫!葛西君はお酒はいけるクチ?」と手で飲む仕草をする。

「あっ、はい。多少ですが…」

「良い焼酎があるんだ。ぜひ飲んでってよ。」

急な展開に少し混乱する。彼女と泊まれるのは嬉しいけど、そんなロマンチックな雰囲気にはなりそうもない。

初のお泊まりが、こんなどんよりした家(失礼)なんて…。

晩ご飯は彼女が鍋を作ってくれた。

前にカレーを作ってもらったことがあるけれど、お世辞にも美味しいとは言えず、料理は僕のが上手いと思った。

鍋とはなかなか良いチョイスだ。失敗がない。

ほどよくお酒を頂き、叔父さんから彼女の話をいろいろ聞いた。

お風呂にも入り、叔父さんのパジャマを借り、いよいよ寝る時間。

二人で二階まで上がる。胸が高鳴る。

「葛西くんはここで寝てね。私は居間で寝るから」

「えーっ……」

露骨に不満そうな顔をするが、相手にしてもらえず、「居間に来たら殺すからね」とまで言われる。

しょうがない。まぁ、叔父さんも叔母さん(しかも病人)もいるし、おとなしく寝ることにしよう。

お酒を飲んでたせいもあり、あれからすぐに眠れたんだけど、嫌な物音で目が覚めた。

ベチャ。

何の音だ?

神経を集中する。

ビチャッ、ベチョ。

生のひき肉を床に叩きつけるような、不快な音。

一階からだろうか?

怖くなり、部屋の電気をつける。

また耳をすます…。

気のせいか?

とても静かな夜だ。

気を取り直し、もう一度寝ようとすると、

ブーーッ、ブーーッ。

携帯電話のバイブだ。おもいっきりビクッとしてしまった。

時刻を見ると2時ぐらい。こんな時間になんだよ、と着信したメールを見ると、彼女からだ。

〈聞こえた?〉

と一言。

〈何あれ?何してんの?〉と返信。

すると、しばらくしてからまたメールが届く。

〈絶対に部屋からは出ずに寝たフリしてて。理由は明日。〉

絵文字付きデコメールで返信されてきたけど、少しも楽しげな気分にはなれない…。

いったい何が起きてるのか、めちゃめちゃ気になるが、さすがに覗くのは怖い。

電気を消して、また横になる。

ベチャ。

「もーう、こえーよ…。」思わずつぶやく。

ダン! ダン! ダン! ダン! ダン!

夜の静寂を打ち破るように、荒々しく階段を上がってくる音が響き渡る。

何っ?誰っ!?

軽くパニック状態になりながらも、布団に頭まで潜り、息を殺す。

大丈夫だ、大丈夫。

この家には、僕と彼女と叔父さん、叔母さんしかいない。大丈夫。

自分に強く言い聞かせる。

階段を上がりきったのか、途中で止まっているのか、急に静かになった。

布団から顔を出し、廊下の気配をうかがう。

…静かだ。

思いきって、声をかけてみようか?

咳払いぐらいにしとくか?彼女に電話をするか?

トイレに行くフリをして起きてみるか?

少しの間、考えを巡らす。

ダンダンダンダンダンダンダンッ!

直感で、階段を上がりきった!と思った。

ダメだ、やばい、怖い…。

彼女のメールに従い、寝たふりをする。

これ以上はないくらいに小さくなり、布団の中で、おもいっきり目を閉じる。

暑くもないのに、背中の汗が止まらない。

どうか彼女の冗談であってくれと祈る。

ベチャ。

絶望的な気分になる…。

ベタッ、ベチャ…。

その何かは、確実に近づいて来ている。

もう、気配で普通の人間じゃないことはわかる。

ガチャガチャ。

激しくドアノブを回す音が聞こえる。

二階には確か4部屋あり、僕が寝ている部屋は一番奥にある。

順番にドアを開ける音が聞こえる…。

次はこの部屋だ…。

ほとんど知らないけど、雰囲気だけでお経を唱える。

南無阿弥陀仏…。

南無阿弥陀仏…。

ガチャガチャッと乱暴にドアノブを回し、ギギィとドアが開く音…。

もう限界だ。

震えが止まらない。

歯がカチカチと音を鳴らす。

その時、ググッと何かに背中を押された。

「ひっ…」

思わず声が漏れる。

グイグイと背中を押す力が強くなる。

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…。

早口言葉のように夢中で唱える。

すると、布団ごしに背中を押してるモノがカクカクと動き始めた。

顔だ!どうやら顔を布団に押しつけられている…。

「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ…」

おもいきって、布団をはねのけて顔を出す。

すると………。

オチは初コメに託す。

怖い話投稿:ホラーテラー 菅直人さん  

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