短編2
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想定外の出来事

僕の住むアパートには、幽霊が出る。

白い服を着た、髪の長い、若い女の幽霊だ。

彼女が何故このアパートに憑いているのか、何を恨んでいるのかは分からないが、割と日常的に現れる。

『ぎゃーっはははははっ!』

不意に暗闇から現れ、不気味な笑みを浮かべながら、高らかな笑い声を上げる。

そうして、慌てふためく僕を見ては、満足そうに消えていく。

その繰り返し……僕にはそれが、堪らない恐怖だった。

その幽霊は、僕のみならず、アパートの住民全てが目撃していた。

そして皆同様に、僕と同じ恐怖を味わっていたのだが、隣のおじさんだけは違った。

「彼女は人を脅かして遊んでいるだけだから、やらせておいてあげなさい。害はないから」

そんな事を言われたって、怖いものは怖い。

ってかそもそも、害のない幽霊なんているのか?

現世に強烈な恨みを持ち、人を呪い殺そうとしているからこそ、こうして現れるのではないか?

いつか誰かが殺される……僕にはそう思えて仕方がなかった。

そんなある日のこと。

夕食を作る為に、台所で包丁を握っていると、不意に照明が消えた。

驚き振り返る先、あの女の幽霊が、居間の中央に立っていた。

『ぎゃーっはははははっ!』

次の瞬間、グサッという鈍い音と共に、右足の甲に走る鋭い痛み。

慌てて視線を下に向けると、スリッパ越し、包丁が足に突き刺さっていた。

思いがけぬ出来事に、増幅する恐怖。

「こっ、殺されるーっ!!!(絶叫)」

台所にしゃがみ込み、両手で頭を抱える僕。

包丁が足に刺さったのは偶然では無い、女の幽霊がそう仕組んだのだ、そう思った。

そう、やはり彼女の目的は、人間を殺す事だったんだ!

『ちっ、ちが……』

不意に耳に届く、幽霊の声。

視線を向けると、彼女は何故か狼狽しながら、顔を小刻みに振っていた。

そして、何ともばつの悪そうな表情を浮かべながら、闇の中に消えて行った。

以来、あの女の幽霊は、僕の前『だけ』には現れなくなった。

(他の部屋には今でも出る)

きっと、僕が驚いて包丁を落とすのは、彼女にも想定外の出来事だったのだろう。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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