短編2
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兄弟

小学生の頃に死んでしまった弟が今、僕の目の前にいる。

弟は何も話してくれず哀しげな表情で立っている。

まだ僕のことを許してくれていないんだろうかと不安になる

弟が死んでしまったのは僕のせいだ。

夏休みに友人宅に遊びに行く時、いつものように弟がついてこようとした。

僕は弟を連れて行くのが嫌だったから走って家を出た。

弟も全力で走ってついてきた。

家から少し離れたところの郵便局の前の横断歩道を走り抜けて振り返ったと同時に弟は運送会社のトラックにはねられた。

即死だった。

お葬式で母さんも父さんも親戚の人も参列した人はみんな泣いていた。

みんなの顔を見ると罪悪感で押しつぶされそうになった。

弟は僕が吹くハーモニカの音が大好きだった。自分も吹きたいと母さんに買ってくれとよくせがんでいた。

だから僕はせめてもの償いにと僕の藍色のハーモニカを棺に入れた。

中学高校を卒業して社会人になっても罪悪感は消えず今に至る。

目の前の弟は僕をきっと憎んでいるだろう。

呪い殺されても文句は言えない。

弟が僕に何を要求しようともそれに応じようと思った。

突然、弟は走り出した。

僕は慌ててついて行く。家を飛び出し近くの河川敷まで弟は走った。

弟はこちらを振り向いて僕に藍色のハーモニカを手渡す。

吹けということなのだろう。

僕は堤防を背に藍色のハーモニカをくわえ弟の好きだった曲を演奏する。

何故だろう。演奏していると頭の中に昔の映像が流れ込んでくる。

そうだ…弟と初めて喧嘩して初めて仲直りした場所もここだった…

涙がこみ上げてきて音が無茶苦茶になってもハーモニカは吹き続けた。

演奏が終わると僕の目から涙がひとすじ流れた。

「許してくれるのか…?」

僕は震える声で聞いた。

弟は僕に微笑んでくれた。

涙が止まらなかった

ボロボロの泣き顔のまま弟を抱きしめた。

手は弟の体をすり抜けた。けれどそれでも抱きしめる格好をした。

少しすると弟は光みたいに消えてしまった。

手に持っていたはずの藍色のハーモニカも無くなっていた。

あれは夢だったんだろうか…

全部、僕にとって都合の良いことだもんな…

そう思って煙草をポケットから取り出すと何かがポトッと落ちた。

拾って見てみると少し焦げてはいるが、藍色のハーモニカの破片だった。

僕は頬を伝う涙を手で拭い空を見上げた

怖い話投稿:ホラーテラー さださましさん  

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