短編2
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私の実家には玄関が二つあるのだが、一つは来客向けの面門でもう一つは家族用の裏口だ。

その裏口の話をさせていただきます。

裏口は食堂に近く、呼び鈴を使わないで戸を開ける人がいれば音で分かる。

新しい戸で静かに開くが、やはり金属製なだけあって多少は音がするのだ。

また、呼び鈴を使わないのは家族は勿論のこと、親戚や顔見知りの人もそうだ。

誰かが来ても相手を大体は把握していたので、音が聞こえれば玄関に向かうのがいつものことだった。

ある日の夕食時、時間は八時頃だったろうか。

いつもの用に玄関が開く音がした。

私が玄関に一番近い席だったので来客を出迎えに行った。

行ったのだが、誰もいないし玄関も開いていなかった。

この時は空耳だろうということで食卓に戻ったが、どうも腑に落ちない。

鍵は私が夕方に閉めていたんです。

どこの家庭でも役割分担というものはあるでしょう?

私の分担は家の戸締まりでした。

こなさなければ厳格な親父の説教が待っていたので、私だけでなく姉弟も分担をサボることはなかった。

その後も何回も同じことが起こった。

夕食時、戸が開く音が聞こえる、私は玄関に向かう、だれもいない。

そのうちの何回かは空耳ではなく、食卓にいた家族全員が聞いていた。

イタズラかと思った時もあり、私が走って玄関の外まで出たが、見晴らしのいい玄関先はいつもと変わらない静かな夜だった。

何か盗まれたとか親父が倒れたなどというわけでもなく、ただ夕食時に戸が開く音がするだけの繰り返し。

少しだけ怖い反面、煩わしいというのもあった。

いま私は学生として実家を離れているが、夕食時にはまた玄関から音が聞こえるのだろうか。

そういえば、音が聞こえる時期はちょうど盆や誰かの命日のあたりだったような気がします。

怖い話投稿:ホラーテラー 雨光さん  

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