中編5
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清流

恐怖に支配された瞳のAさんの首が

九十度に折れ曲がる

周りにいる人達も次々と首から腰から

バキッ、ボキッと音を立てて直角に折れ曲がり

絶命していく

漠然と次は自分の番かとまさに地獄絵図のような

異常な風景にあたりを見まわしてゆくと

小屋の窓に映った自分の後ろでアレがニタリと笑い

私を見ているところですべてがフリーズしたように

時間が止まった

―またか・・・

時計を見ると午前二時

最近の私の夢はこの惨劇に支配されている

起きた時に大量に汗を掻いているわけでもなく

ただ握りしめたふたつの手のひらに

爪が食い込みうっすらとした血の感触と痛みに気がつく

固まった指の関節をゆっくりとほどきながら

理解しようとすることを拒否しながら

あの日を思い出す

全ては私が生まれたことから始まっていたのだろうか

私に記憶があるのは4歳のころ

知らない大人に連れられ

知らない都会に私は来た

当然周りには知らない顔や声

そもそもその時私は私以外の人間を知らない

覚えているのは

そう覚えているのは

―石、そうあの石だ

二年前までは私の元にいつもあったあの小石

砕けてしまうその時まで

私の一番初めの記憶の中にあり

唯一のお守りとして信じていた

いや、本当にお守りだったのかも知れない

私以外の人の為のお守りとして・・・

二十歳を迎えた二年前の秋

職場の同僚のAさんと私を含め4人で

東北の自然がそのまま残った温泉地に

貧乏旅行に来ていた

Aさんを筆頭にその頃の私たちは

自然の中に生まれその姿を残す

無料の露天風呂を巡ることを楽しんでいた

温泉街とは呼べない温泉街を背中に残し

パワースポットとしても雑誌で紹介されている

自然温泉を目指し山の奥を目指していた

一番年下であった私は

当然のごとく運転手に命じられ

舗装されてない道をAさんのナビを頼りに

走らせていた

時々、木々の間から射し込む太陽の光が

まるで暗示をかけるかのように規則的に

視界に入っていた

―この辺りにはオカルト的な伝説があるらしい

Aさんが地図を眺めながらつぶやいた一言が

なぜか全身に鳥肌をたてた

あの感触を今もはっきりと覚えている

残念ながら伝説の内容は覚えていない

その後の出来事が全てを支配したからだ

尿意をもよおした私は

車を途中にあった細い林道に進めた

温泉街を出るときにすまさなかった事を

みんなに責められながら用を済まし

車に戻ろうとしたときに

Aさんが車から降りてきた

―なんだ、Aさんだって・・・

言おうとしたときにAさんに制止された

Aさんの視線を追うと

車を停めた時には気がつかなかった

更に細いけもの道と言っても良い程の

道がそこにはあった

その奥を凝視しているAさんに

―どうしたんですか?

聞くと野生の動物か何かがこちらを見ていたらしい

―何かって(笑)

そう言いかけた時

それは私の視界にも入ってきた

Aさんを見るとこちらを見ていて

それに気がついた二人も車を静かに降り

私たち四人はそのけもの道に足を進めた

道の横には湧水かなんかだろうか

清流と呼べるような小さく細い川が

なんとも心地よい音をたてて流れている

そんな自然の中にいると

みんな気分が落ち着きどこまででも歩いて行けるような

気がしていたのではないだろうか

どれほど歩いたかわからないが

ふと前を歩くAさんの足が止まった

視線の先には

数件の寂れた農機具をしまう倉庫のような住居と

井戸が見えた

―こんなところに住んでる人がいたんだなぁ

と一番の年長者がつぶやいた

その時、荒れ果てた住居と住居の間の道の奥に

たくさんの緑の中でも映えることすらできていない

赤い朽ち果てた鳥居のようなものが見えた

その先には決して立派とは言えないが

小さな木造の小屋があり

その少し奥には何かを祀ってあるだろう小さい建物があった

ただ四人茫然とその何かが祀られるであろう小屋を

眺めていると

後ろから地元の人なのだろうか

―こんなところさ来て、なにしてんだがぁ

と、不思議そうに話しかけてきた

―ここは・・・

地元の人に応えようとした時に

その後ろから一人の老婆が顔を出した

ここまで自分で歩いて来たのだろうか

浅く速く肩で息をしている老婆が

私たち四人を見まわしたところで

私で視線を止め

カッと目を開いて私に老婆とは思えない動きで

突進してきた

―なんてことだがしゃぁ

突進されよろめいた私を無視し

老婆は私が幼いころから持ち

今は穴をあけネックレスとしているそれを

首からはぎ取りその場に膝から崩れ落ちた

大丈夫かと近づいたAさんは

老婆に手をかけようとした時に

ヒッと差しのべた手を引っ込めた

―・・・しゃゆ・・しえうい・・だ

老婆が何かをぶつぶつとつぶやいている

そこで私は一瞬何が起きたかわからないが

冷静さを取り戻し

奪われた石を取り返そうとしたその時だった

―ぬしゃぁ太邪螺婆口の子じゃぁああ

と私の石を放り投げその場でまたつぶやき始めた

私は何が起きているのかわからず

ハッと思い起こし石を拾おうと探した時

最初に話しかけてきた地元の人が

いち早くその石を拾い

それを凝視しその瞬間石を

近くにあった岩に叩きつけた

―しゃべいびゃいすわじゃぁぁぁぁ

何が起きてるのか私にも一緒にいる三人にも

まったくわからない中で

その地元の人は腰から下が直角に折れ曲がり

絶命した

あまりもの異様な出来事に言葉を失っていると

私の後方にいた年長の人が

言葉にならない呻きをあげた

驚いてその人を振り向くと

私の背中の方を指さし

早口で何かを言っている

聞き取れずに近づいたその時

Aさんが年長者に近づこうとして

私を見て、そして恐怖の瞳をしたまま

首が直角に折れ倒れた

直後バキッ、ボキッと何かが折れる音がして

辺りはまた清流のせせらぎと木々のこすれる音

鳥の鳴き声が戻った

何が起きたのだろう

私は状況がわからないまま

辺りを見回す

その時小屋にはめられた汚れたガラスに

私の姿が映った

いや、私ではない

太った身体に首のないいびつな形をした頭のそれは

顔の半分以上ある口から舌を出し

ニヤリと笑い口を大きく開けたところで

私の記憶は途切れた

倒れこみ意識が途切れそうな時に私はかすかに

だけどしっかりと聞いた

―また二十年後・・・

読んで頂きありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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