中編3
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あとすこし

「あとすこし…あとすこし」と、聞こえたのはそこに居た5人全員だった…

中学生だった俺達、夏休みはほとんど海で遊んだ。

仲良し5人組(ABCDと俺)はいつもの様に小型船で出発した、「今日はちょっと違う場所に行こうや」船を操縦しながらAが言う、勿論全員賛成。

船着場から2時間位の所でシークレットビーチみたいな所だが何か異様に静かで寂しいと言うか遊び場にしてはいけない様な雰囲気の所だった…

いつもの様に釣りをしたり潜ったりして遊んだ、ある程度魚も釣れ、貝類も集まったので、「そろそろ帰るか?」とCが言いながら船に手を掛ける。すると「帰ってバーベキューしようや」とDが言いながら船に乗りこむ。俺もAも潜り疲れたので何も言わず船に乗る。

Bはと言うと、20メートル位離れた岩場にしがみついたまま動かない…

俺が「何しよるんじゃ?」と叫んだら

Bが叫んだ「早よ来てくれや!」

体が冷えたのか、疲れて泳げないのか判らなかったがとりあえず船を近くまで進めた。

Bはガタガタと体が震えていた…、

Aが「ほらみろ、体が冷えとるんじゃ、早よ来いや!」動きそうもないBを見てイライラしながら言う。

Bが「なにかおる……何かが居るんじゃ!」と、振り向き、怯えた表情で叫んだ!

「はぁっ!?何かが居る?何かそりゃあ、何が居るんかや?」俺が言うとBは「もう少し近くに来れんか?」

そう聞かれても岩場で船の底が当たりそうで行かれない…

「何が居るんかや?」と俺が再度聞くと「わからんが、海ん中で聞こえたんじゃ!何か声みたいなんが!」とB…

「でもこれ以上近くに行くのは無理じゃこれに、つかまれや!」そう言ってロープ付き浮き輪を投げた。

Bは海に入るのが怖い様子だったが、浮き輪にしがみついた。

皆でロープを手繰るが何故か重い…重すぎる…なかなか船に近づかない!やっとのことで船に近づいて引き上げ様としたその時!

「あとすこし」…

「あとすこしあとすこし」って聞こえた。

その声と共に海面には俺達が乗って来た小型船より少し大きな顔が…

それは女の顔…

「うわぁ!何かこれ!?どぉなっとるんじゃ?」

「早よ船出せや」

「早よBを上げたれや」

「早よ早よ!」

Bを引き上げた俺達は急いで船を出した、雲行きは怪しくなり、波も出てきたが、なんとか船着場まで帰る事が出来た。俺達は船から我先にと降りた…

その様子を見ていたAの父さん(船の持ち主)が、「どぉしたんかお前等」と聞いて来た。

「出たんじゃ…海に…幽霊かなんか知らんが…出たんじゃ…俺達…」と、Aは話を続け様としたが、「お前等、あれに行ったんか?」と、Aの父さんが話しながら道路上に俺達が行った場所の地図を描き始めた…

「ここじゃ、ここ行ったんか?ここは行ったら駄目じゃ!ここは絶対行ったら駄目じゃ!お前等ここは女が死んどるから、近づいちゃ駄目なんじゃ」

話によると、Aの父さんが高校生の頃、その場所で事故があったらしい。

事故の内容は、

男女4人の海水浴客がその場所で遊んでいた、1人の女性が溺れて死亡、3人は怖くなってその場から逃げ出す、数日後、勿論警察沙汰になり、消防も出動、遺体はその場所から流される事無くその湾のなかで見つかる、もう1人の女性が警察で、男2人は溺れた女性を助ける事無く船の上で「あとすこし、あとすこし」と、薄ら笑いを浮かべながら言うだけだった、と証言して事故が事件になったらしく、Aの父さん達(俺達全員の父達も同級生)も、その場所には噂話(心霊話)も有り近づかなかったらしい。

俺達全員が聞いた声と海面の顔が何なのか判ったらもっと怖くなった…

「だいたい盆中に泳ぎに行くお前等は馬鹿たれじゃ、怖い思いするのもしょうがないのぉ」とAの父さんの言葉を合図に各自帰路を急いだ…

この体験後なかなか海に行けなかった俺達全員だった…

怖い話投稿:ホラーテラー 達磨王さん  

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