中編5
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峠の幽霊

今から約20年前、私が地方から進学のために上京して2年目の夏、大学2年生の時の話です。

当時、私は八王子市内のアパートを借りて一人暮らしをしていたのですが、都内の違う大学に通う同郷の友人(Sとします)が週末ともなると、私の家に訪れ、くだらない話を肴によく二人で酒盛りをしていました。

その夏の夜もそんないつもの酒盛りの最中でした。お互いまだ未成年でしたが高校時代から酒とタバコを覚え、朝方まで話をしながら飲み続ける、というのがお決まりのパターンでしたが、その日、友人はあるおもしろい話をお土産に持ってきました。

「八王子とさ神奈川の境界ある、ある峠にさ、幽霊が出るんだってよ。真夜中に行けばかなりの確率で遭遇するらしいぜ」

「へえ、生まれてこの方一度も幽霊なんか見たこと無いから、一度くらい見てみたいもんだなあ」

私は昔からそういったオカルト話が大好物で、若気の至りというか、一度ぐらいは「本物」を見てみたいと以前から思っていました。

そんなやりとりをしながら飲んでいるうちに、酔いのせいもあったのでしょうか。二人とも無性に肝試しに行きたくなり、深夜12:00を回る前に、車を所持しているという理由で私と同じ学校の友人(Mとします)を用件も詳しく話さず電話で呼びつけました。

寝ようとしていたところ唐突に、私たちの肝試しツアーの運転手として呼び出されたMは怒るというよりも、半ばあきれていましたが、酔った私とSの勢いに押されて、しぶしぶ話に上がった件の峠まで車を出してくれることになったのです。

深夜の空いた道を一時間程走ると、Sが仕入れてきた幽霊話の峠の入り口まで到着しました。あたりは薄暗い街灯の光だけで、対向車や人の気配もありません。たしかにそれっぽい雰囲気だけは充満しています。

「よし。じゃあ行ってみるか!」私は運転手のMを促し、峠への道を登り始めました。この時運転手がM、助手席が私、後部座席にS、という配置でした。

10分も走ると坂道が終わり、ゆるやかな下り坂になっていきました。

「なんだよ~。やっぱりガセネタかあ?それともか俺たちにそういう能力がないから、幽霊がいても見えないだけかあ?」などと笑いながら深夜のドライブを楽しんでいたその時です。前方の道端に、何やら人影のようなものが見えてきたのです。

最初に気づいたのは運転手のMでした。「おい、あそこに誰か立ってないか?俺の気のせいか?」Mにそう言われた私は、酔った目をこすりながらMに言われた方向を見てみると・・・

たしかに小柄な人影のようなものが見えます。

「おい、ゆっくり車を進めてみろ。俺がじっくり正体を見てやるから」私はMにそういって、窓の外の景色を凝視しました。Sはといえば、酔いが回ったのか後部座席で気持ちよさそうに寝ています。

正直、幽霊ポイントも過ぎて油断していたタイミングで、それらしき影が現れたので、私は内心ビビッていましたが、無理やりMを引っ張り込んだ手前、弱気なところは見せられません。車はゆっくりとその怪しい陰に向かって距離を縮めていきました。

車が怪しい人影にもう少しで到達しようとした、その時でした。いきなり、その謎の物体が通過しようとする車の前方に倒れこんできたのです!

もう、私とMは大パニックです。二人の大声にさすがに目を覚ましたSが「なんだよ、うるせえな!何かあったのかよ?」と不機嫌そうに聞いてきました。

しかし、私もMもパニック状態で言葉が出てきません。たしかに「倒れこんできた何か」を車で引いてしまったような感触はあったのです。

その場に急停車し、しばらくおろおろしていましたが、もし万が一本当の人間を撥ねていたなら一大事です。意を決して、でも怖いので三人そろって車外の様子を見るために車から降りました。

車のフロントにはこれといった外傷も無く、やはりただの見間違いか、あるいは幽霊の類にからかわれたのか?わかりませんが、とにかく人身事故ではなさそうです。

ひとまず安心して三人で車に戻りました。

「さて、ちょっとビビッてしまったけど、もう帰ろうか」私が若干落ち着きを取り戻して、あとの二人にそう話しかけたその時でした。運転席のMが凍りついた表情で「おい、あれ・・・」とフロントガラスの方を指差します。

「ん?」意を得ない私とSが前方を見た瞬間でした・・・

「ヤツ」は首だけの状態でフロントガラスに張り付いていたのです!

緑色の皮フ、不気味に笑う赤い口。これぞ幽霊!と言わんばかりに生首がフロントガラスに張り付いたまま、こちらを見つめて笑っていたのです!

もう、三人とも声も出ません。何か言葉を発すると、そのままとりこまれてしまうのではないか?私は恐怖の中でそう勝手に思っていました。

運転手のMは、私が指示する間もなく、ガタガタ震える手で車を急発進させます。幸いエンジンはずっとかけっぱなしだったので、この手の展開でよくあるような、逃げたいけど車のエンジンがかからない、というお約束は回避することができました。

車を猛スピードで走らせながら、私はひたすら「冷やかしで来てごめんなさい。お願いだから早く消えてください!」と、心の中で思うのがやっとでした。おそらくあとの二人も私と似たような心境であったと思います。

ずいぶん長い時間、車を走らせたような気がしますが、一向にガラスにへばりついた生首は消えてくれません。

なんかもう、絶望感が車内に漂い始めました。「ああ、俺たちたぶんこのまま、こいつにとり殺されるんだろうな」そういう一種のあきらめもありました。

そんな状況で、ふと私は小さい頃大好きだった『ゲゲゲの鬼太郎』を思い出しました。アホみたいな思考ですが、どうせやられるなら鬼太郎みたいに、こいつに直接立ち向かってやろう!そう決意したのです。もちろん私には鬼太郎のような妖術は使えません。でも、究極まで追い詰められた結果、なんか戦ったらひょっとしたら追い払うことくらいはできるんじゃないだろうか?そう思い始めていたのです。

「おい、M!車停めえや!ワシがこいつを追い払ってきちゃる!」

興奮のせいか、地元の方言に戻った私は運転するMにそう大声で支持しました。

「おい、停めてどうすんだよ?」

「ええけえ、停めえ!ワシがなんとかしてくるけえ!」

その時の私は、怖さを通り越して、なんか悪の妖怪をやっつける鬼太郎の気分でした。

Mは私の勢いに押されたのか、わりと素直に停車させてくれました。

私は一度深呼吸をし、覚悟を決めて車外に飛び出ました!そしてガラスに張り付く生首に向かって「わりゃあ!どういうつもりなら!!さっさと消えろや!!」

そんなことを叫んだと思います。

そして、もう一度、不気味に笑い続ける生首に叫ぼうとした、その時でした!

車のフロントガラスにべったりと張り付いていた、緑色の不気味な生首の正体・・・

それは・・・

薬局の店頭によく設置してある、ケロヨン人形の頭部だったのです。

おしまい。

※このなんちゃって怪談をキャバクラで話すと、結構、女の子にウケてもらえます。キャバクラトーク用に創作しました。

怖い話投稿:ホラーテラー 最近失恋しましたさん  

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