メンヘラA子さん ~叫び~

中編6
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メンヘラA子さん ~叫び~

私は静かな場所が苦手で、

特に図書館などに行くと、蒸すような息苦しさを感じてしまいます。

どの程度まで音をたてていいのかとか、とても不安な気持ちになって、自分の足音や呼吸の音すら気になりだします。

その内、私の《息苦しい、怖い、帰りたい》というマイナスな気持ちや考えまでテレパシーのように周りに伝わってしまう感覚に襲われ。

そうなると私の頭の回線がループを始めます。

私の心の声が周りに筒抜けになっている、この声すら

筒抜けになっている、この声すら

筒抜けになっている、この声すら

、、、

近くに居る人間は全てこの声が聞こえているのに知らんふりをしている。

ドラマのエキストラのように、ただの飾りのように黙りこくっている。

そんな風に見えて来て、、

うわあああああああああ!!!!

思わず発狂して所構わすペンを突き立てたくなるような、そんな衝動にかられます。

耳や鼻にペンを突っ込んでぐりぐり回したり、誰かに馬乗りになって顔面を細かい穴だらけにしてやりたい。

そんな狂った衝動です。

多分頭の中の一つの回線が、車輪のように加速し過ぎて、ショートするのだと思っています。

正直、私は自分が怖いです。

ーーーーーーーーーーーーーー

私は、田畑に囲まれた田舎町のアパートで母親の女手ひとつで育てられました。

都市をつなぐ片側2車線の幹線道路沿いにアパートはあり、騒音や揺れが酷く、そこに長く住んでいたのも私たち親子くらいだったように思います。

地元の若者が騒いでるだけですが、夜になると国道から叫び声が聞こえてくる事がありました。

車から身を乗り出し吠えるような?声や、意識的に出すような奇声、女性の悲鳴もありました。

テレビをつけてれば、テレビで相殺されて声は聞こえないので、聞こえてくるのはいつも寝る時間帯でした。

目を閉じてると、、、

アェーー・・

《国道の幽霊》が若者を驚かせて、、

とか、そういう噂がある訳でもなく、、

私が小さい頃は得体の知れぬその声が怖くて、恥ずかしながら泣いたこともありました。

あれは幽霊じゃないんだよ、幽霊はいないんだよ。

あれは変な人。変な人が叫んでるだけだよ。

よく母に宥められましたが、子供の私には幽霊でいてくれた方が救いがあるような気がしました。

小さい頃、男の裏声のようなものが毎晩国道を通り過ぎる事があったそうで、、

それが切っ掛けで、私が聞こえない声に怯えたりする事がよくあったそうです。

どれも記憶にはありませんが、私はとても手のかかる子だったようです。

今は上京し実家を離れましたが、疲れている時など夜中にしばしば、金縛りにあいます。

横になっていると、身体が動かなくなっていて、とたんベットの後方からガサガサとインディアンの幽霊が迫って来て、必ずそのインディアンが耳元で騒ぎます。

アワワワワワワ!!!!

アワワワワワワ!!!!

けたたましい裏声で鼓膜が破れそうになり、死ぬほど怖いです。

何故か気付くといつも朝になっているし、恐らく夢なのでしょうが、、

予告なく聞こえてくる叫び声に、トラウマがあるのだと自分では考えています。

ーーーーーーーーーーー

実家を離れたことで、色々と自分を冷静に見る事が出来たのてすが。

今は様々な人に触れて、正直、平和ボケというかギャップという障害に苦しむ日々です。

昔の話ですが、

高校の頃、畑で奇声をあげている人を見たことがあります。

昼間の交通量の多い国道沿いを自転車で走っていると、キャベツ畑にサラリーマン風の男が突っ立っていました。

国道に背を向けていましたが通りからも丸見えで、変な感じはしませんでした。

自転車を停め、興味本位で何をしているのかと畑に降りてくと、サラリーマン風の男は裸足で土に足を突っ込んで、白目を剥きながら口をパクパク動かしていました。

めにょーーーん、た!きゅのー!、ろーーろろー、

男は一人白目を剥いて訳の分からない言葉を喋っているだけでした。

一瞬知的障害の人なのかと思いましたが、それだとスーツに違和感があり、私の見ているモノが何なのかすぐに判別がつきませんでした。

多分通りの騒音が声を相殺してくれるので、車の音に共鳴させるように奇声をあげていたんだと思います。

きゃきょきょーー、きゃっきょ!きょきょーー、

、、、

車の通りが止むと男はスイッチを切ったように静かになり、車が通るとまた気持ちよさそうに叫びまくるのでした。

なんとなく危険を感じてすぐその場を去りましたが、去り際に振り返ると、男はキャベツを蹴散らす勢いで、私のすぐ後ろまで迫って来ていました。

目が合った男の顔は怒りに満ちていて、確実に、何度も、殺す!と叫んでいました。

本気の殺意というか、脅しではない本気の、殺す!という叫びで、男の手には刃物が握られていました。

全身の毛穴が完全に開いたというか、本当、全てがスローのように感じられて、その場は全身全霊をかけ本気で逃げました。

他にも、同じく国道沿いの整形外科の屋上で、顔面に包帯を巻いた男性が金網をつかんで大声をあげていたのを見た事があります。

けっこう距離もあったけれど、かなり大きな声で叫んでいるようでした。

それも昼間の騒音がすごい時間でした。

ーーーーーーーーーーーー

私はあの国道沿いで、何人もの叫びを聞きました。

自分が思ってる以上に、あの環境は酷かったのだと思います。

私の育った環境に疑問を抱いたのも、ホント最近のことです。

最近私の見る夢にも疑問を抱くようになりました。

こちらに来て知り合った友達に、私の奇妙な夢の話を打ち明けた事があり、夢というのは昔の記憶のフラッシュバックに過ぎないと教わりました。

夢に現れるインディアンは、幽霊ではなく、昔の記憶のフラッシュバック。

友達には映画か何かだから心配ないと言われましたが、昔の記憶と聞いてすぐに浮かんできたのは、母でした。

私が忘れているだけで、もしかするとあのインディアンは母だったかもしれません。

私の母は変人、いや、母は狂っていました。

普通に食事をしていると、いきなり犬のようにモノを食べ始め、ワンワン吠えたと思ったらゲラゲラ笑ったり。

鳥や動物の真似をして、部屋をメチャクチャにした後、トイレにこもって泣いたり。

母なら寝ている子供の耳元で、インディアンのように奇声をあげるくらい簡単な事のように思います。

あの騒音と揺れの酷い環境下で普通に生活出来たのも、そもそもは母だからなのかもしれません。

私をここまで大きく育ててくれたのは、紛れもなく母で、感謝はしています。

でも、こうして自分を見つめ直し、周りと見比べてみると、大きなズレを感じる場面が日常では多々あります。

そうして自分の中に刻まれたモノの深さを知る度、苦しさよりも悔しさみたいなものがこみ上げてきて、また発狂しそうになってしまいます。

私は普通になりたいです。

私は普通になって、普通のいい母親になって、

幸せに暮らしたいです。

私には普通というものが分かりません。

全て手探り、違うと思うものを捨て、それっぽいものを選び、1から積み上げるしかありません。

大切に育てたつもりでも、私の手によって異形に育ってしまうかもしれません。

私には不安しかありません。

変わりたいと思う勇気だけが今の私を支えています。

この叫びが届くなら、どうか私に手を降って下さい。

私は普通になりたい。

私は幸せになりたいです。

私は幸せになりたいです。

おわり

怖い話投稿:ホラーテラー ハミーポッポーさん  

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