長編10
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野狐の怨念

【プロローグ】 

何年も前の話です。ある日、当時おつきあいしていた霊感の強い女性に

膝枕してもらいながら、何気に聞いてみました。

「ねえ、幽霊が見えるってことはさあ、普通の人間のオーラも見えるわけ?」

平和なひと時の、ごくごく他愛も無い素朴な質問です。

「オーラ?うん。見えるよ、普通に」

「へえ!やっぱりそうなんだ。ちなみに俺のオーラってどんな色?」

彼女は俺の指先を見つめて、

「あなたのはねえ、青かな。青っていうか水色に近い青だけどね」

「へえ、すげえなあ!なんかそういう能力があるヒト、尊敬しちゃうなあ」

「いや、でもね。無きゃ無い方が幸せなんだよ。見たくないものまで

見えたり寄って来たりするんだから」

たしかにそういう側面もあるでしょう。でも、私は彼女のそういった

『特殊能力』に本気で尊敬の念を抱いていました。自分に無いものを

持つ人には憧れたりするじゃないですか?

 そこから急に話が飛びます。

「ところでさあ、この近くの有名な廃屋あるじゃん?俺も前から

噂だけは知っていたけど。こないだテレビでやってたんだよね。

あそこ行ったこととかないの?」

 

 ここは某地方都市ですが、その怪しい廃屋は地元だけでなく今や、

全国的にも有名になっており(観光地にできるわけじゃなし。地元に

とってはそんな負の遺産、ありがた迷惑でしょうねえ)、昔から怖いもの

見たさに、昼夜を問わずあちことから見物?に来る若者たちが後を絶たない

みたいです。たぶん今現在もそんな感じだと思います。

彼女は私がちょくちょくオカルト話をねだっても、あまり嫌がらず、興味

深い話をよく聞かせてくれていたのですが、

この時は「はぁっ」っとため息をついて、ちょっと話し辛そうな態度でした。

 

「あそこねえ・・・実は10代の頃、友達連中に半強制的に肝試しのお供で

連れて行かれたことあるよ。あそこはねえ、マジでやばいところよ。

まさに『触らぬ神に祟り無し』だね」

 霊のラブホテルの一件以来(『憑かれたホテル』参照)、私はオカルト話は

聞くだけに留めて、自ら乗り込みたいなどとは毛頭考えていなかったのですが、

そこまで話を聞いたら好奇心がくすぐられてしまいます。

私が話の詳細をねだると、彼女は仕方ないな、という感じで、その廃墟に

行った時のことを話してくれました。(私が直接関わった話ではない為、

関係者のことを考慮し多少フィクションを入れました。ご了承下さい)

【予備知識・それぞれの立ち位置】

●彼女(H)→生来の強い霊感を持つ女性。仲間内の肝試しに巻き込まれる。

●友人連5人(A♂、B♂、C♂、D♀、E♀)→彼らは元々、霊の存在を

信じてはいなかった。ただし、万が一、物見遊山の肝試しの最中に、

霊が出てきた時のことを考え、「通訳」的な意味合いで霊感があると

仲間内で評判のHを肝試しツアーに巻き込む。

※私がHに「危険を承知で、何でそんな物見遊山にわざわざつきあったの?」って

たずねると

「あのまま彼らだけで行かせたら、間違いなく取り返しのつかない

ことになるから、ほっとけなかった」

とのこと。

※要するに彼らが暴走して、そこに棲むであろう怪異の怒りに触れた場合を想定し、そうならない為の防御壁として、嫌々、肝試しにつきあったらしいです。

(彼女自身、そういった異界の住人にちょっかいかける行為が、どれだけ

危険か知っていますからね)

と、ここまで前置きが長くなりましたが、次回より本筋に入ります。

【肝試しへの誘い】

 その日、仕事帰りのHのポケベルが鳴った。どうやらHの彼氏の友人から連絡の催促らしい。

 自宅に帰り、ポケベルを鳴らしたAに何事ならん?と連絡すると、

「あ~H?あのさあ、今晩、例のスポットに肝試しに行くんだけど、専門家として同行してくれよ」

この電話の時点でHの体は既に拒否反応を示した。『例のスポット』の

ことは噂を聞いている。いずれもロクな噂ではない。

いつの頃建てられたのかまでは知らないけれど、山奥に忽然と姿を現す

7つの民家があり(こう書くと場所特定されちゃいますね)、いずれも

空き家。現在は手付かずで放置されており、荒れ放題。

 

 不気味なたたずまいが噂を呼んで、格好の肝試しスポットになっている。霊現象が起こるとか起こらないとか、真偽の程は定かでないが、

いずれにせよ、気持ちよく行ける場所ではない。

 仮に同行して噂の通り悪質な霊でもいようものなら、何らかの被害は免れない。

「見えてしまう」Hはそんな所に物見遊山で行くなど論外だった。

「あのね、A。私もあそこには行ったことないけど、興味本位で行っていい場所じゃないから。悪いことは言わないからくだらないことはやめなよ」

ところがAは、

「へえ!お前がそう言うってことは、本物なんかもしれんなあ。

 いいよ、俺らはただ見学に行くだけだから。BとCと、あと、D、Eも誘ってるんだよ。あいつらはかなり楽しみにしてたよ?だから、お前もつきあえよ!」

Hの霊感体質は仲間内では有名な話だ。Hを連れて行けば幽霊とコンタクトがとれるかもしれん、そういうAの打算が見え隠れしていた。

Hは困ったことになったな、と思った。男連中はともかく、DとEは

女性でそれなりに仲もいい。危険なのをわかっていて、彼女たちをそんな

場所に行かせるわけにはいかない。

 しかたない、ぎりぎりまで同行して直前で制止しよう。

Hは腹を括り、肝試しツアーへの参加を渋々了承した。

待ち合わせの時間は午後9時。季節は初夏。生ぬるい空気の中、

集まった計6人の男女は2台の車に分乗し、約一時間かけて、その

山中の廃墟を目指した。

 Hは念の為に魔除けの護符を持参していた。万が一、自分が霊に

とりこまれてしまったら、仲間を守ることもおぼつかないからだ。

 スポットから一番手前にあるコンビニに立ち寄ると、意外なほど

その店内は盛況だった。周囲から聞こえてくる会話に耳をすますと、

噂を聞きつけたオカルト好きな連中が、やはりその空き家を目指して

集まってきているようだ。中には既にスポットに突入した帰りの

グループもいるようだ。

 Aたち男連中も店内のそういった会話に気づいたらしく、

「ほらH、みんなあそこに行ったみたいだけど大丈夫じゃん?

 そんなに気にすることないよ」

と、いたって楽天的。

Hは店内の客たちの気配を、独自の嗅覚で本能的に嗅いでいたのだが、

やはりあまりいい空気は感じられない。気のせいか獣臭さを感じる。

 だがそういった危険を感知する嗅覚はHだけのものであり、同行した

友人たちには言葉でしか伝えることができない。

 Hは再度、肝試しの中止を訴えてみたが、AもBもCも聞く耳は

持ち合わせていなかった。

「大丈夫だって。家の中に入らずに外から見るだけなら大丈夫だろ?」

そう言って彼らはHの忠告に耳をかさない。

ここまで来た以上、Hはあきらめて被害を最小限に抑えることを

考えるしかなかった。

 彼女の防衛本能が「行くな!」と行っているのに、それに逆らった

行動をとる時は決まってロクなことがない。

 Hのそんな不安をよそに、一行は店を出ていよいよ目的地へと

車を走らせたのだった。

【廃墟到着】

 Hの不安をよそに、一行は無事?件の廃墟群に到着した。

着いてみると、先客たちの車が数台停まっており、ご丁寧に廃墟群の

前で観光旅行よろしく記念撮影などしている。

 Aたちは先客に

「なんか出ましたあ?」

などと気軽に声をかけている。これといって特に怖いことは起こって

いないとのこと。

 しかし、記念撮影を終えて帰って行った先客たちから先程コンビニでも

感じた獣臭が漂っていることをHは敏感に感じとっていた。

 実際、その場所は手入れがされていないだけあって草木が伸び放題、

入り口から奥の廃墟群まで突入するには、そのような障害物をかきわけて

いかなければならない。

 深夜でもあり、足元も見えにくい状況でそこに突入するのは、事故など

別の意味で危険を伴う為、先客たちは廃墟群の入り口で雰囲気だけを楽しんで

帰ったようだ。

 そんな状況下でAたち男3人も廃墟群の中に突入することには躊躇していた。

DとEの女性二人は、やはり深夜の不気味な雰囲気に押されて帰りたがっている。

「ねえ、もういいでしょ?ここまで来て満足したでしょ。帰ろうよ」

D、Eは口を揃えて言う。

 だが、この言葉で妙なスイッチが入ったのかわからないが、AとBは俄然

突入へのやる気を起こしてしまった。

 Hが止めるのも聞かず、AとBの二人は草木をかきわけながら、廃墟群に

突入して言った。残された3人は暗闇に消えるその後姿を見ているしかなかった。

 Hはふと突き進む二人の前方に、青白い炎がポツポツと現れていることに

気がついた。どうやら他の連中にはあの炎が見えていないらしい。

 そしてその人魂たちはAとBの周りを取り囲んでいった。

「まずい!」

 我にかえったHは大声で二人を呼び戻した。

「あんたたちの周りを人魂が取り囲んでるから!早くこっちに戻りなさい!」

人魂と言われても目視できない二人は、Hの声が聞こえても理解ができなかった

が、声から伝わる緊迫感だけは伝わったようだ。

「わかったよー!そんなに言うなら今からそっちに戻るからあ!」

AとBは突入をあきらめ、入り口の方に引き返してきた。

しかし、どうやら手遅れだったようだ。

Hの目には二人を、とりわけAの体にまとわりつくような数体の人魂が、

一緒について来ているのがはっきりと見えたから。

入り口まで戻ってきた二人に、Hは用意していた塩をまいた。

今更、塩で清めたところで大した効果はないかもしれない。

やらないより、やったほうがマシ、程度の処置だった。

 いつの間にか二人を囲んでいた人魂は消えていたが、Hは余計に嫌な

予感がした。

 「ひょっとすると完全に入られたかも・・・」

Hは内心そう思ったが、この場でどうこうすることはできない。

自分の気のせいであってほしい、そう願うしかなかった。

 こうして、この日の肝試しは終了した。

「なんか中途半端な肝試しだったよなあ」

男連中は口々にそう言ったが、知ったことではない。

帰りの道すがら特にこれといった異常はなかった。

しかし、Hの鼻はAの体から発せられる獣臭を敏感に感じとった。

その日、何箇所かで感じた獣臭とは比べ物にならないくらいの臭いを。

他の場所で感じた臭いは「残り香」のようなものだった。

 

だが、Aの体から感じるそれは、あきらかに質が違う。

 「手遅れかもしれない」

Hはあらためてそう思ったのだった。

【エピローグ】

「でさあ、結局、その男はどうなっちゃたの?」

膝枕のまま私は彼女にたずねた。

「まあねえ。結果的に言うと翌日、発狂してね、そのまま病院送りになった」

「なんで?お払いとかしに行かなかったの?」

「うん。彼の両親がそういうのすごく嫌いな人で。私も彼の家に行って

事情を説明して、早く祓わないと本当に手遅れになるからって、言ったんだけど、19の小娘の言うことには耳を貸してもらえなくてね」

「そうなんだ。その男の人、まだ生きてるの?」

「入院したのはもう10年以上まえのことだけど、風の噂ではまだ精神病院にいるみたいね。一旦、精神に入り込まれたら、反対に簡単には殺してくれないみたい、ああいうモノたちは。

 じわじわと時間をかけて命を削っていくんだろうね。

 もちろん、今更お祓いしても手遅れだけどね」

「そっかあ、怖ええなあ・・・でもさあ、あの廃墟群ってなんなの?

 やっぱり地縛霊みたいなのが住み着いてるわけ?」

「あそこはねえ、私も行って自分の目で見るまでは知らなかったけど、

 ものすごい数の野狐(やこ)の霊が居座ってるみたいね。

 私が見た人魂は狐火だったのね。私があそこに連れて行かれる途中

に獣の臭いを感じてたけど、たぶんあの臭いを引っ張って来てた

人たちも程度の差はあるだろうけど、なんらかの霊障はあったはずだよ」

私は以前、ラブホテルの幽霊に八つ当たりされて、吐きそうに

なったことを思い出した。ああいうことか。

「もうね、並みの人間じゃどうすることもできないくらい穢れた土地に

 なってるよ。徳のある霊能者さんとかお坊さんとかが何十年もかけて

 浄化したとして、それでも祓えるかどうかわからないくらい、すさまじい

 怨念だね。たぶん私の勘だけど、人間に殺された狐とか動物の霊が、

 あの場所に吹き溜まって、あんな異空間をつくってるのね。

 だから人間に対する怨念みたいなのが半端じゃないよ」

 そこまで聞いて私は背筋が寒くなった。

 彼女と知り合うずっと以前に、有名なスポットをこの目で見たくて、

友達を誘ってその場所を目指したことがあるのだ。(そういう経緯が

あったから、彼女にその場所のことを聞いてみたのだ)

 その時は幸いにして道に迷ってしまい、たどり着くことができずに

あきらめて帰ったのだけど。今思えばたどり着けなくてヨカッタ!

「やっぱりね、人間が絶対に近付いちゃいけない場所ってあるんだよ。

 いけないっていうか、近付くと命の危険を伴う場所ね。

 『触らぬ神に祟り無し』っていうのは本当のことなんだよ。

 特に動物の霊は見境がないからね。あの時もA以外の私たちが無事

だったのはたまたまだったんだよ。例えば家で犬を飼っていてその

臭いがしたから、とかその程度の理由。

 あの場所も何百年もかかって自然に浄化する時が来るのかもしれないけど、

 今はまだそうはなっていないからねえ」

 彼女はその経験以来、二度とどんなに誘われても危ない場所に同行する

ことはしなかったという。霊感がある=霊を撃退できる、わけじゃないから。

止めても行く人はもう、自己責任だから、と割り切るしかない、と。

某県に実在する、この廃墟群。

おもしろ半分に行かない方が身のためですよ?

おしまい

怖い話投稿:ホラーテラー だが、それがいい!さん  

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