短編2
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同僚の思い込み

昔の話で、霊体験ではありません。

高校を卒業後、とある会社に事務員として就職しました。

田舎の小さな会社で、傍目から見れば地味な職業だったかもしれませんが、当時の私は日々充実しており、不満は欠片もありませんでした。

会社には週に二〜三回のペースで出入りしている業者さん(男性)がいたのですが、その方と私は年齢も近いことから、社内で偶然顔を合わせた時などはお互いに立ち話を楽しみました。

話題は大抵、業者さんの恋愛悩みで、年下の彼女の相談(半分ノロケ)をよく受けました。イケメン…と、まではいきませんが、朗らかで真面目そうな人だったので(私なんかに悩みを打ち明けるほど考えてもらえてて、業者さんの彼女は幸せ者だなぁ…)と、思っていたのです。

そんな平凡な毎日を送っていたのですが、父親の転勤で私も会社を退職し遠い土地へと移り住むことになりました。諸々の事情から着いて行かなくてはならない状況でした。

急に退職してしまう(仕事を投げ出してしまう)罪悪感から、連日、長時間の残業をしていました。

勤務最終日のことです。その日も会社を出たのが22時頃でした。会社裏に停めてある車へ向かう途中で誰かに呼び止められたのです。振り返ると上下ジャージ姿の業者さんがいました。

彼は笑顔で(待ってたよ)と言いながら近づき、私の数歩手前まで来ると、今度は(ごめん)そう言って頭を下げるのです。

「………え?どうしたんですか?」色々な疑問と不安が入り混じって、ただ、硬直状態の私に彼は……

「本当にごめんね〜、何度考えても遠距離恋愛は自信なくて、………付き合い始めの頃に行った温泉、また行くって約束も果たせなかったね………ディ〇〇ーランドで撮った二人の写真とか、なんか捨てらんないよ………〇〇ちゃんの初めては俺でしょ?〇〇ちゃんは俺を忘れられるの?大丈夫?」

ペラペラと喋られ続けられ呆然としていると、急に彼の腕が私の背に回され「最後にお別れのキスしよっか」と言われました。

思い切り彼を突き飛ばし全力疾走で会社に戻った私は、巡回中の警備員さんに暫く一緒にいてもらったのですが、怯えている訳は話せませんでした。彼の言動があまりにも尋常ではなかったからです(逆恨みも怖かった)

私と彼は、会社で週に数回顔を合わせた時などに話をする程度の関係で、それ以上でも以下でもありません。

思い込みの激しい人の頭の中では、第2の世界みたいなものがあるんですかね?未だに信じられません。本当に普通の人だったのに……。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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