中編4
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カブト虫

初めに、この話は心霊話ではありません

ただ子供だったあの時、あの瞬間は本当に怖かったので書いてみました

不愉快な表現があるかも知れませんが、馬鹿にしている訳でも蔑んでいる訳でもありません

不快に思われたらごめんなさい

あれは小学三年か四年生の頃、私の街に男の浮浪者が住みついた

浮浪者はボロボロな作業服の様な格好の上に、あちこち破けた汚いコートみたいな上着を羽織っていた

顔は垢なのか日焼けなのか黒く、見た目の服装のせいかヤケに汚く感じた

浮浪者を見かける様になって数ヵ月、そろそろ夏休みに入る頃

学校や町内で浮浪者の事が話題になった

学校では『不審者に注意するように』という内容のプリントが配られ(当時の私はプリントの内容が難しく、あまり理解出来ませんでした)

両親や近所の大人達からは、『知らない人に近づいてはいけない』とよく注意された

母親などは

「あの浮浪者に気を付けなさい。絶対に近よっちゃダメよ」とキツく言われていた

夏休みに入り私は、山にカブト虫を採りに友人と出掛けた

友人はカブト虫やクワガタをそこそこ捕まえたが、私は思うように採れず不満だった

自慢気に見せる友人に嫉妬し悔しい思いをした

翌日あまりの悔しさに1人で山に入った

その日は昨日より酷く、全くいない

小さなクワガタが少しいたが私は納得がいかない

新しい場所を探さないと……子供心にそう思い山の中をウロウロ探し回った

しばらく探し歩くと青い物が木々の間に見えた

私は何だろうと青い物のある所まで行くと、その青い物はブルーシートで木と木の間に縛ってある

シートの下には薄汚い鍋や食器、ボロボロの鞄や毛布などがあった

幼かった私にも直ぐにあの浮浪者の住みかだと分かった

やばい、怖い……帰らなければ…私は来た道を引き返した

少し歩くと向こうから人が歩いて来る

浮浪者だ!?私はそう思い木の影に身を隠した

やはりあの浮浪者だった、私は怖くて木の影で目を閉じ、ジッと硬くなっていた

浮浪者の足音が私の隠れている木の前で止まった

殺される!?

何故かそう思った私は突然泣き出してしまった

浮浪者は泣いている私の頭を触り始め、膝を折って私を下から覗き込むように見上げてきた

泣いている私と目が合った、私は怖くて怖くてよりいっそう激しく泣き出した

「あわ…あうへぇ…いぃいあぁ…」浮浪者が訳の分からない事を言った

泣きながら浮浪者を見るとニコニコ笑っている

浮浪者は腰の辺りから、汚れて黄ばんでいる汚いタオルを取り出して泣いている私の顔を拭いてくれた

それでも私はヒックヒックと肩を動かし呼吸した

浮浪者は私の持っていた虫カゴを手に取り

「はぐぅお…うひぃ…」と言ったが私には外国語の様に理解出来ない

浮浪者は私の手を握り

「あぁうえぇ…」と言いながら歩き出した

私は逆らうと殺されると本気で思い、浮浪者に手を引かれ一緒に歩き出した

どの位歩いたか分からないが私には随分と長く感じた

しばらくして浮浪者は立ち止まり、私の肩を抱えてしゃがみ込み私と同じ目線で指差した

指差した方を良く見ると二股に別れた大きなクヌギの木があり、木の根元にカブト虫やクワガタがいる

私は不安感でどうしたら良いのか分からず立ち尽くしていると、浮浪者が私の虫カゴを取り木の根元まで行きカゴにカブト虫やクワガタを採ってくれた

でもその時にスズメ蜂に刺され浮浪者は「あぁぎぃ…」と叫んで尻餅を着いた

浮浪者は頭を低くして私の元に駆け寄り、私の肩を掴んで走り出した

私も必死に走った

浮浪者の家?に着き虫カゴを2人で見てニヤニヤ笑った

子供だった私は、幼いからか単純なのか不思議とその頃には浮浪者に対して恐怖感や不安感は全く無くなっていた

浮浪者の耳の後、髪の生え際の辺りが赤く腫れている

私は「平気?ごめんなさい」と浮浪者に謝った

浮浪者は顔を横に振りニコッと笑った

次の日私は薬箱から『キンカン』という塗り薬を持ち出そうとして母親に見っかった

「どうした?虫にでも刺されたの?」

「あっ…友達が蜂に刺されたから……」

「友達って誰?」

「えぇっと…ゆきお君…」

私の受け答えが怪しく思った母親は私を問いただした

私は泣きながら昨日の浮浪者との出来事を話した

母親に凄く叱られその日からしばらく外室禁止となった

何日かして外室も許された日、私は直ぐに浮浪者の居る山に入った

何も無くなっていた……

ブルーシートも鍋や食器、毛布も何もかも綺麗にない

「〇〇〇!」不意に私の名前が呼ばれて声の方を振り返ると

母親と祖父がいた

私は母親にビンタをもらった

私は泣き出し祖父に抱きついた

祖父は私の頭を撫でながら「あのコジキはもう居ないよ」と言った

数年後、中学生になった私は母親にあの浮浪者の事を聞いてみた

「あんたがあの浮浪者に何かされたら大変だと思ったから、町内会長さんに相談したんだよ

町内会長さんが警察に相談したらしいけど事件じゃないからと言われて

民生委員や役場の人達とあの浮浪者の所まで行ったらしいよ

たしか何処かの施設に入ったみたいだよ」

私は寂しい様な安心した様な何とも複雑な気分になった

大人になり結婚し子供が出来た私は

「見た目だけで人を判断してはいけない」と小学生の子供にこの話をした

子供は「わかったよ」と言っていたが多分、口だけで完全には理解出来ていないと思う

でもいつか

この話を思い出し、理解してくれる日が来ると信じている

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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