3年程前の話。
この部屋に引っ越してから3週間ほど経った頃だった。
月に1度体調を崩し熱を出す体の弱い私は、その日も1日中ベッドで横になっていた。
ふと目が覚めた。もう夜になっていて、部屋はだいぶ暗かった。
暗闇に目が慣れ、眠気も失せて意識がはっきりとしてきた時に、携帯の着信が気になった。
しかし、携帯が見当たらなかった。
たぶん、ベッドと壁の間にでも落ちたのだろう。などと思っていた。
その通りだった。
着信音が鳴り、携帯の画面が光り、壁を照らした。
その時、光の中に妙なものが見えた。
影だった。下から太い棒のようなもの、上の方で5つに細く分かれている。
手だ。
そう思った。
そしてさらに、手の影は増える。
2つ……3つ……4つ5つ6つ……
音はしない。影のみが淡々と増えていた。
臆病な私は、恐怖のあまりに体を動かすどころか、呼吸すら出来なかった。
まるで、あの影に体を縛られ、首を絞められているような感覚だった。
ふっ、と体が楽になった。
気付くと、影はもうなかった。
と言うより、携帯の光りが消えていた。
起き上がり、部屋の明かりをつけた。
そこは、いつもと同じ部屋だった。
私はあれから、この部屋で何事もなく暮らしている。あれから3年経つが、変わった事は何もない。
あれは、何だったのだろう。
終。
怖い話投稿:ホラーテラー ドラゴン辰吉さん
作者怖話