中編3
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導き地蔵

昔々、気仙沼でのお話です。

ある日の夕暮れ、海沿いの小道を

一組の母子が急ぎ足で歩いておりました。

二人は、知り合いの家の畑仕事を手伝った帰り道で

とても疲れておりました。

「さぁ、早く歩かないとあたりが真っ暗になってきてしまうよ。

もう少し頑張れば家に着くからね。

家に着いたらおいしいご飯作ってやるからね。」

母が子を宥めたりすかしたりして歩いているうちに、

二人は“導き地蔵”のそばまで来ておりました。

“導き地蔵”とは

明日には亡くなってしまう人の魂を死後の世界に導いてくださるお地蔵さまで、このあたりでは有名でした。

そしてそのお地蔵さまの前で、

一人の若い男が手を合わせて拝んでおります。

母はとっさに子の手を引いて

岩かげに身を隠しました。

その男からは、どうしても生気を感じることができなかったのです。

(きっと明日亡くなってしまう男性の魂が、

ああやって生き霊となってお地蔵さまにお参りしているに違いない。)

母がそんなことを考えていると

いつの間にか男の姿は消えていて、

代わりに一人の老婆がお地蔵さまの前におりました。

(あら!

あのおばあさんは、村一番の長寿の方だわ!

このあいだ御挨拶した時は元気だったのに、明日亡くなってしまうのね…。)

そして老婆の姿が消えると

今度は赤ん坊をおぶった若い母親がお参りを始めました。

(まだ、あんなに若いのに…。

しかも赤ん坊まで一緒だなんて…。)

母がやりきれぬ思いでため息をつくと

ふと、あることに気が付いたのです。

なんと、その若い母子の魂の後ろには

まだまだたくさんの魂たちがズラッと並んでおり、

お参りの順番を待っているのです。

なかには牛や馬などの動物もおります。

(どういうこと!?

明日は、こんなにたくさんの人や動物が亡くなってしまうの!?)

恐ろしくなった母親は

我が子を抱きしめ、逃げるように家に帰りました。

翌日。

今日は浜辺で潮干狩りが行われる日です。

ほとんどの村人が参加し、大変賑やかで楽しい行事ですが

母親は昨日のこともあり行く気分にはなれませんでした。

しかしずっとこの日を楽しみに待っていた子供のために、重い腰をあげて浜辺に向かいました。

浜辺に着いてみると、やはりたくさんの村人で賑わっております。

子供も早速友だちを見つけ、

一緒に砂浜で遊び始めました。

母親をそんな我が子の姿をぼんやり眺めながら、

昨日のことは夢だったんだろうか、と考えておりました。

すると近くにいた老人たちの会話が耳に入ってきたのです。

「そろそろ潮が満ちてきてもいい頃合いなのに、一向にその気配がせんなぁ。」

「いんや。それどころか、今日はわしらでさえ今まで見たことがないくらい、潮が沖のほうまで引いておる。」

その時でした。

「大変だー!大津波だぞー!」

誰かの叫び声とともに、巨大な壁のような津波が迫ってくるのが見えました。

母親はもう必死で我が子を抱きしめ、近くの小高い山の頂上を目指しました。

ようやく頂上に辿り着き、村を見下ろしてみると、

そこにもう村はありませんでした。

美しかった浜辺も、田畑も、家々も、すべて波に飲み込まれてしまったのです。

「昨日私が見た魂たちは、この津波で命を………。」

母親は涙が止まりませんでした。

後から分かったことですが、この津波で

68人の村人と15頭の家畜の尊い命が奪われてしまったそうです。

そして導き地蔵は、

今も気仙沼のどこかにひっそりとたたずんでいるらしいのです。

以上、まんが日本昔話より

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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